第95話

「そうなんですね。私が何かする事とかありますか?」

仕事で行くんだし、役割ぐらい聞いとかないとね。


「市原さんは、キングのお守りをお願いしますね」

三村さんは黒い笑みを浮かべてそう言い切った。


いや〜それ一番面倒なやつじゃないかな。

そりゃあパートナーとして行くんだから、側には居るつもりではいるけど、おもりまでは···ちょっとね。

私がキングを制御出来るとは思えないんだもん。


「瞳依ちゃん、そんな嫌そうな顔しないで

。切なくなるよ」

キングは眉を下げて私を見る。

そんな捨て犬の様な瞳で見ないでくださいよ、私が悪いことしてるみたいじゃん。


「べ、別にそんな顔してませんよ」

焦って言い訳したら噛んだ。


「本当に?」

「ほ、本当です」

疑う様に目を細めて私を見ないでください。

心の中を見透かされそうで怖い。


お守りなんて本当は嫌だし。

大体、キングの隣を歩くのでさえ嫌なんだから仕方ないじゃん。

仕事だと言われたら聞くしかないんだけどさ。


「焦ってる瞳依ちゃんて可愛いね」

本当可愛い、なんて言いながら抱きしめないで〜!


「きゃ! セクハラ反対!」

キングの胸を両手で慌てて押し返す。


「俺に抱きしめられてセクハラだって言うのは瞳依ちゃんぐらいだよ」

クスクスと楽しそうに笑うキングを見上げて睨み付ける。


「樹も絶対に言いますよ」

「ああ、彼女は言いそう。その上、肘鉄の一つもお見舞いされそうだよね」

「だったら離してください」

「え〜どうしよう。瞳依ちゃんて、俺の腕にすっぽり収まるから抱き心地いいんだよね」

実に楽しそうで嬉しそうなキングに、妙なテンポで心臓が跳ね上がる。


本当、勘弁してよ。

これじゃ、つく前にクタクタになる。

大体人前で普通に抱き締めるとかありえないから。


「み、三村さ〜ん、助けてくださいよ」

涙目で訴える。


「その辺にしておかないと本気で嫌われますよ。いいんですか?」

やれやれと首を振った後、キングを咎めてくれた三村さん。


「それは困るなぁ。でも離したくないな。だって瞳依ちゃんいい匂いするんだよね」

「ちょ、勝手に匂いがないでくださいよ」

私の髪に顔を埋めてクンクンするキングに更に焦ってくる。


「キング」

三村さんの少し強めの呼びかけに、

「あ〜はいはい。分かったってば」

残念そうな顔で私を開放したキング。

その瞬間に、後部座席のドアに背中が当たるまで距離をとった。


もう、抱き締めさせてやらない。

こんなの本当心臓が持たないんだからね。

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