第94話
三村さんが最後に乗り込んで車は発車した。
窓の外を流れる景色は、もう夕暮れだ。
家に迎えに来てもらったのはお昼過ぎだったのに、支度を整えてもらってる間に随分と時間は進んでいたらしい。
私達を乗せた車は街道を進み、砂浜の広がる海岸線へと出る。
長く続く防波堤の向こうに、ゆらゆらと揺れる水面がオレンジ色の太陽を写し取っていた。
地平線で割れたように見える2つの太陽が幻想的な景色を作り出してる。
「うわ〜綺麗」
思わず漏れ出た声は、
「うん、綺麗だね。時間があったら砂浜に降りてゆっくり見てみたいね」
私の肩越しに窓の外へと視線を向けたキングに拾われた。
確かに防波堤の向こうの砂浜に降りて見たら、もっと綺麗に見えるかもしれないな。
予定があるから行けないんだけどね。
「そうですね」
「今度夕暮れの浜辺をデートしようか?」
冗談なのか、本気なのかいまいちよく分からない誘いの言葉に眉を寄せるも、振り返る事は出来なかった。
背後からふわりと香るキングの匂いと、かなり近くに感じた気配にドキッとしてしまったせいだ。
「そんな機会があったらいいですね」
背を向けたままどちらともつかない返事を返す。
「これから、きっと機会は沢山あるよ」
「···」
「瞳依ちゃんと色んな場所に行ってみたいな。絶対に楽しいと思うんだよね」
キングの言葉にえっ? と振り返り見えたキングの子供みたいな笑みに、嫌だと返せなかったのはどうしてかな。
女好きのチャラ男なのに、そんな顔するのはずるいよ。
異性との接触に慣れてない私には、この人の本物の笑顔は本当毒だと思う。
胸の奥にじわじわと湧いてくるよく知らない感情に居心地の悪さを感じた。
こんなの知らない。
こんなの私じゃないよ。
「あ、あの、三村さん」
キングの醸し出す空気に耐えられなくなって、助手席に座る三村さんに声をかけた。
「なんですか?」
助手席から振り返った三村さんがいつもの無表情で、なんだか安心した。
「今日はどちらに向かってるんですか? 私、何も聞いてないんですけど」
「ああ、そうでしたね。今日のパーティーはうちの得意先の社長の誕生日パーティーなんですよ」
「へ?」
誕生日パーティーに同伴者がいるとか変なの。
「少し変わり者の社長で、異性の同伴者を伴って参加をする様に招待状に書いてあったんです」
「そ、そうなんですね」
私の思考を読み取ったらしい三村さんが理由を教えてくれた。
それは変わり者だと思うよね。
三村さんの顔は実に面倒臭いと今にも聞こえてきそうなほど苦り切ってた。
うん、その気持ち、すご〜く分かります。
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