第93話

「あれって、本当にキングなの? キングの皮を着た別人じゃない」

驚いた顔で満さんが三村さんに聞く。


「ええ、間違いなくキングですよ」

「人って変われるのね」

「ええ、そのようです」

「瞳依ちゃん、苦労しそうね」

「別の意味ではキングも苦労しそうです」

「「間違いない」」

感慨深げに頷き合う満さんと三村さん。


そんな2人の会話は、キングの手によって早々と店内から連れ出された私達には聞こえていなかった。




キングに手を繋がれたまま外へ出ると、キングの登場を出待ちしてたギャラリーの皆さんが黄色い悲鳴を上げた。

あまりの煩さしかめっ面になっちゃうのは仕方ないよね。


それに、チクチク刺さる視線には、かなりの殺気が含まれてるし。

針の筵だよ、これ。

私だって好きでこうなってる訳じゃないんだからね。

本当、勘弁して。


「なんなのあの子」

「いや〜! キングと手を繋いでるじゃない」

「ちょっと可愛いからって生意気」

聞こえる様にコソコソ話すって何なんだろうね。

それ、すでに内緒話じゃないから。


「瞳依ちゃん、可愛いんだってぇ」

どこ拾ってんですか?

嬉しそうに微笑んで私を見下ろしたキングに冷めた視線を向けておく。


「そんなのいいんで。さっさと車に乗りたいです」

店の前に横付けされてる高級車に目を向ける。


「そうだね。さぁ、こっち」

頷いたキングは、西川さんがドアを開けてくれた後部座席へと私を慣れた手付きで誘導してくれた。


「おかえりなさい。瞳依ちゃん、今日は何時にも増して可愛いね」

キングに向かって頭を下げた後、西川さんは私を見て微笑んだ。


「だよね、可愛いよね。本当食べちゃいたい」

キングの最後の言葉が肉欲的な意味に聞こえたのは気のせいだ。

スルースキルを駆使して、キングよりも先に進み出た。


「ありがとうございます」

西川さんに会釈してキングの手を振り解き、後部座席へと乗り込む。


これ以上、外に居たら嫉妬や妬みの視線で焼き尽くされちゃうよ。

車内に入って外部からの視線が無くなった事に、大きく息をつく。

この後もこれに耐えなきゃいけないと思うと、うんざりした。


「瞳依ちゃん、どうかした? 凄く疲れた顔してるよ」

隣に乗り込んできたキングが顔を覗き込んでくる。


いや、だから、距離が近いんですってば。

この人にパーソナルスペースはないのかな。


「色んな意味で、既に疲れてますよ」

キングと距離を取りつつ本音を伝える。


「そうなの? 初めての事に緊張してるのかな」

そんな問題ではないような気がするのは、私だけかな。


子首を傾げるキングがイケメンでムカついた。

全部、キングのせいですからね!

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