第92話

「瞳依ちゃ〜ん」

だから、その呼び方止めてってば。


キングが満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる。

店内の客達の黄色い悲鳴が広がったのは言うまでもない。


「お久しぶりキング。瞳依ちゃんの仕上がり具合はどうかしら?」

胸を張って自信たっぷりにキングを見る満さん。


「流石ミッチー、やるね。瞳依ちゃんの可愛さが10倍アップしてるよ。ミッチーに頼んで良かったよ」

「でしょ? そうよね。私って天才だもの。褒めて褒めて」

キングの言葉にテンションの上がった満さんは、両手を胸元で合わせて騒ぎ出す。


なんだろう、このウザさは。

綺麗に仕上げてもらってあれだけど、満さんのテンションがちょっとウザいよ。


「瞳依ちゃん、本当可愛い。凄く綺麗だよ」

キング、そんな蕩けるような瞳を向けてこないで欲しい。

まぁ、抱きついてこなかっただけ、よしとするけど。


「···何から何までありがとうございます」

一先ずお礼を伝える。

今の自分にどれだけの金額が掛かっているのか考えると、目眩がしそうだけど。


「着飾ってもおごることなく、通常営業の瞳依ちゃんはいいね」

「そうですか?」

「うん、そう。今日は変な虫が寄り付かないようにしっかりとボディーガードしなきゃな」

キングは今日、仕事関係のパーティーに行くんですよね?


私のボディーガードとかしてる場合じゃないような気がするけど。



「仕事もしっかりしてくださいよ、キング」

ほら、三村さんのお小言貰ったじゃん。


「わかってるって。快斗は口煩いよ。ね、瞳依ちゃん」

ちょっと私に振らないでくださいよ。

三村さんに睨まれるじゃないか。


「三村さんが正しいと思います」

「え〜瞳依ちゃんは俺の味方でいてよ」

「無理です」

三村さんを敵に回す様な馬鹿な真似はしない。


「ツンな瞳依ちゃんも可愛い」

「ちょ、抱きつかないでください」

正面からギュッとされて、慌てふためく。


ふんわりとキングの付けた香水が香って、ムカつくぐらいドキドキした。


キャ〜! と更に高くなった黄色い悲鳴に、マジで勘弁して欲しいと思った。

これじゃ、先が思いやられるよ。



「うわ〜瞳依ちゃんいい匂いするね」

クンクンと嗅ぐな! 犬じゃあるまいし。


「本当、離してくださいよ」

「え〜どうしようかな」

「どうしようかな、じゃないです。離してくれないならパーティー行きませんよ」

こんな羞恥にあわされるなんて冗談じゃない。


「それは困るな」

仕方ないなと解放してくれたが、代わりに私の手を掴むのは止めて。


「どうして手を繋ぐんですか」

「そんな気分?」

気分ってなんだ〜!

パーティーに行く前に疲れてきたのは気のせいじゃない。

行きたくないよ、仕事だとしてもさ。

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