第91話

靴を履き、フィッティングルームを出れば、キングと三村さんが店内へと入ってくるところだった。


まだ店内奥にいる私達には気付いてなくて。

対応に動いた店員と会話を始めた。

普段とは違うフォーマルスーツを着て髪をセットしたキング達の男っぷりは更に上がってる。

店内の客達がキャーキャー騒ぐのも無理はないだろうな。


ムカつくぐらいカッコいいってどうなんだろう。

あの隣を歩かなきゃいけないと思うと、気が重くなった。



「さぁ、キングを驚かせに行きましょう」

悪戯っ子みたいにウインクした満さんは、私の肩を押すように促した。


「やっぱ行かなきゃ駄目ですよね」

しぶしぶ歩き出す。


「そんな暗い顔しないの。今日の瞳依ちゃんに勝てる女なんてそうそう居ないわよ。自分に自身を持って、ほら胸を張って」

パシッと掌で背中を叩かれて背筋が伸びる。


口調は優しいのに、力加減間違えてますよ。

こう言う所は男の人なんだね。


「痛いですよ」

背中のじんじんする痛みに苦情を告げる。


「フフフ、ごめんなさい。ちょっと加減を誤ったわ」

「···」

謝ってるのに、謝罪の気持ちが全く伝わってこないのは何故だろうか。

黒い笑みを浮かべた満さんを恨めしげに見上げておいた。


「キング、いらっしゃい。瞳依ちゃんの準備ばっちりよ」

オネエ口調の野太い声が店内に響く。


急に叫ぶの止めて欲しいよ。

ほら、店内の視線がこっちに集中したじゃん。

何してくれてんだ、このオネエ!

ムカついたので、ヒールの踵で足先を踏んづけてみた。


「フフフ、瞳依ちゃんの可愛い悪戯は効かないわよ」

「チッ···」

余裕の顔で微笑まれて、思わず舌打ちしてしまったのは仕方ないと思う。


口調はオネエでも、体格は男なんだもん。

私の力じゃ効かないのも当たり前かも知れないな。

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