第90話

結論から言うと満さんは、ただのオネエじゃなかった。

テクニックもセンスも抜群に良いオネエだった。


時間をかけてブローされた髪は、どうやったらそうなるの? って髪型になったよ。

軽くアップしつつも両サイドに編み込みを入れたり、いい具合に後れ毛を残したり、後ろで束ねられた髪はふわふわと舞う様に優しく揺れて見えるようにセットされている。


自分じゃ絶対に出来ないやつだ、これは。



ドレスに着替えた後、再びケープを掛けられメイクが始まり、様々な色のアイシャドウやチークを使って、私の顔は成型された。

綺麗に整えられた眉は私に凄く似合ってて、違和感のないメイクに仕上がったのは言うまでもない。


プロだ、本物のプロがいる。

派手すぎず、かと言って地味に見えず。

満さんの言うとおりナチュラルメイクなんだけど、今までに見たことのない自分が鏡に映ってた。


「やっぱり元がいいとメイクしがいあるわねぇ。こんな感じでどうかしら?」

やり切った! と言う顔で笑みを浮かべ満足そうに微笑む満さんと鏡越しに目が合う。


「ありがとうございます。凄く良いです」

「気に入って貰えて良かったわ。きっとキングも瞳依ちゃんに惚れ直すわよ」

そう言いながら私の肩からケープを取り外す満さん。

惚れ直すって、元から惚れられてませんけどね。 

ちょっと苦笑いになる。


「私も綺麗になるんですね」

ちょっと良い所のお嬢さんみたいになってる自分に感心した。


「普段の瞳依ちゃんは可愛い系だものね。でも、私は少しお手伝いをしただけだよ。元が良いからよ」

「いやいや、そんな。メイクって凄いです」

素人の私でも、満さんの技術がかなり高等なんだって分かる。


「瞳依ちゃんは普段はメイクをあまりしないのかしら?」

「そうですね。ファンデーションと眉ぐらいですかね」

「それは勿体無いわよ。貴方に似合うメイクセットを用意して会社に届けるわね」

「え?」

「あ、お金の心配は要らないわよ。もちろんキング持ちにしておくから」

いやいや、それはどうかと思うんだけど。


「私が持ってても宝の持ち腐れになりそうです」

やり方とか分かんないしね。


「大丈夫よ。使い方を書いた紙も入れておくわ。私に任せておけばばっちりよ」 

ケープを畳み終えた満さんは自分の胸を自信たっぷりに叩いた。


「はぁ、そうですか」

このタイプの人は言い出したら聞かない気がした。


使い方が分かるんなら、私も出来るかな。

少しはお洒落をしてみてもいいかも知れない。


「さぁ、靴も履き替えましょう。そろそろ約束の時間だもの。痺れを切らした迎えが飛び込んで来たら困るわ」

満さんは私の手を取って席から立ち上がらせてくれる。

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