第86話
「ほら、瞳依ちゃんは一人暮らしだし、直ぐに連絡取れる友達がいた方がね、何かと便利いいし。彼女もその方が安心するよ?」
キングにまで諭された。
どういう事だ、これ。
「そう言われたら···まぁ、そうなんですけどね」
「だよね。ほら、親御さんの代わりに連絡するってことでいいよね」
「あ、はい。分かりました」
なんだか丸め込まれた感が半端ないけどね。
父親に連絡を入れられるよりは、樹の方がいいに決まってる。
「じゃあ、決定。瞳依ちゃんを守る会結成だね」
「···」
そんなもの結成して欲しくないし、守ってもらわなきゃいけないほど子供ではないと思う。
艶っぽい目で微笑んでくるキングに大きな溜め息が漏れたのは、仕方ない。
「瞳依ちゃん、この後暇なら晩御飯食べに行こうよ。もちろん大谷さんも一緒にさ」
期待した目を向けてくるキング。
「嫌ですよ」
キングと歩くだけで、面倒臭い視線が絡み付いてくるっていうのに。
それだけでどっと疲れるんだよね。
この前、ドレスを買いに行った日に経験したので、十分だよ。
「え〜即答? ちょっとは考えてよ」
「考えても同じ返事ですよ」
「今日は予約もなくて暇なのに」
「暇つぶしは他所でしてください」
「瞳依ちゃんがいい」
「私は暇潰しの道具じゃないですよ」
「当たり前だよ。瞳依ちゃんは可愛い女の子だし、俺の安らぎだからね」
「···ところで、キングはどうして裏予約減らしたんですか?」
キングの言葉をスルーして、ずっと気になってた事を聞いてみた。
どんな心境の変化があったんだろうって思ってたから。
「う〜ん、最近女の子達とデートしててもつまらないと言うか面白くないと言うか。あんまり気乗りしないんだよね」
「へ〜女好きにもそう言う時期が来るんですね」
「うぉ、瞳依ちゃん辛辣」
「いえ、素直な感想です」
「あ! そうだ。いい事思いついた」
「なんですか?」
うんざりしたように尋ねる。
こう言う時のキングはろくでもない事を言い出すから。
「今度デートしよう。瞳依ちゃんとなら絶対に楽しいと思うし、俺も楽しめそう」
甘さたっぷりの瞳を向けられた。
「嫌ですよ」
「え〜また同じ返答なの?」
「はい。だいたい、キングとデートする意味が分かりません」
「それは自ずと分かるんじゃないかな」
分からなくても良いですよ、行きたくないから。
まったく、おふざけが酷すぎるよ。
「ねぇ、あれは無自覚なの?」
「ええ。まだ気づいていません」
「恋愛初心者同士だとあんな風になるのね」
「焦れったさは否めませんね」
樹と三村さんの会話に首を傾げる。
この2人は一体何の話をしてるんだろうか。
こう言う所、何気に気が合うみたいだねん。。
会話をする2人を見つめながら、やっぱりこの2人は同族だと確信した。
2人が付き合ったら、絶対最強コンビになるんじゃないかなぁ。
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