第85話

なんとも言えない殺伐とした空気を変えたのは、意外にもキング。


「可愛い子の友達はやっぱり美人なんだね。君は瞳依ちゃんが信頼してるだけあるね。この場所に来てこんなに自分を貫ける子は中々いないよ」

クククと声を出して笑ったキング。


「瞳依の為なら、たとえ相手が誰であろうと関係ないわよ」

ありがと、そんな風に言ってくれて。

やっぱり樹は心の友だよ。


「瞳依ちゃんを大切に思う気持ちは俺も一緒だから、君が心配してるような事にはならないよ」

キングは、樹がここに来た理由を言わなくても理解してるみたい。


「話が早くていいわ。瞳依を気軽に股を開く女達と一緒にしてないならそれでいいわ」

樹、ストレート過ぎだよ。


「もちろん、そんなつもりはないよ。俺にとっても瞳依ちゃんは大切な存在だからね」

「そう。でも、その似非笑顔と貴方を取り巻く現在環境は信頼に至らないけどね」

「そこはおいおい信用していってもらうしかないね。俺も信用してもらえる様に頑張るよ」

「...おいおいだなんて、悠長ね」

冷え冷えとする樹の口調を、もろともしないキング。


キングと樹のやり取りを固唾を飲んで見守る。

今、口を出せる気が全くしないもん。


「今回、瞳依ちゃんを巻き込んだ事は俺達の失策だし、今後は今以上に細心の注意を払うよ。瞳依ちゃんは、必ず守る」

「なら、暫くは静観するわ」

しぶしぶという感じにそう言った樹は、隣に座る私へと目を向けた。

私を守るとか、壮大な話になってるけど、私ってこの会社の一従業員に過ぎないんだけどなぁ。

キングに守ってもらうとか、おかしくない?


「···」

「この子、所々抜けてるから心配だけど、職場の人達とも上手くやってるみたいだし、それを私が無理矢理引き離すことはしないわ」

ちょっとディスられてる気がしなくも無いが、樹がこの会社にいる事を認めてくれるならそれでいいかな。

いやいや就職したけど、今はここで頑張りたいって思えるぐらい職場に慣れたしね。


「君とは瞳依ちゃんの事で密に連絡を取ることにするよ。良かったら快斗に連絡先を教えてやって欲しいな」

ね? と三村さんへと顔を向けたキング。

頷いた三村さんにチラリと視線を向けた樹は、止むお得ずといった顔になった後こう言った。


「かなり不本意だけど、瞳依の為だから仕方ないわね」と。

何処までも上から目線だね、樹。

ごめんよ、私の為に不本意な思いさせて。

でも、キング達が樹と連絡する事なんて大してないと思うんだけどなぁ。


「樹を巻き込まなくてもいいと思うんですけど」

と言ったら、

「駄目よ。何かあった時困るから」

樹に即答された。

そんなに何か問題が起こる事はないと思うけど、樹はそう思わないらしい。


「市原さん、貰った連絡先は悪用しないので何も心配いりませんよ」

三村さんが悪用するとは流石に思ってないけど、職場の事で樹に迷惑かけるの嫌だな。

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