第84話

なんだろう、この重い空気。

樹と三村さんの周囲だけに張り巡らされてるそれに、困り顔でキングを見たらやたらと嬉しそうに笑ってた。


「これってお互いに同族嫌悪ってやつ?」

うわ〜この人言っちゃったよ。

空気を読まないキングに驚いて目を見開いた。


と言うか、挨拶しただけの樹を三村さんの同じタイプの人間だと掌握したキングもある意味凄いよ。



「そうね。同じ匂いがして気に食わないわ」

ひぇ〜樹まではっきり言った〜!


「それはこちらのセリフです」

三村さんの無表情こえぇ〜!


パチバチと反目し合う2人の視線が怖すぎる。

しかも、当初の目的忘れてるよね。

どうして、戦いだした!


それにしても、類友は互いに匂いを掻き分けられるのかな。

樹と三村さんの静かな攻防に、小さな溜め息を漏らす。

平和に行きましょうよ。


「あのさ、ちょっと落ち着こうか。ほら、樹はキングに会いに来たんでしょ?」

「···そうね。瞳依がそちらの不手際で攫われかけた件についてもお伺いしたいんですが」

私に頷いた後、樹はやっぱり三村さんを見た。


だ·か·ら〜、喧嘩腰は駄目だってば。

クイクイと樹のシャツの裾を引っ張った。

落ち着いてくれ、頼む。


「それはこちらの完全なミスです。今後このような事がないように配慮します」

素直に頭を下げた三村さん。

彼は自分の非を素直に認められる人なんだよね。


それが意外だったのか、トゲトゲしてた樹の空気が若干和らいだ。


「それならいいです。但し、今後瞳依の身に危険が及ぶ様な事があれば貴方達と引き離す事も検討しますよ」

「そうですか。肝に銘じておきましょう」

樹の言葉に神妙な顔つきで頷いた三村さん。


「ちょっと待って待って。話を勝手に進めないでよ」

キングが慌てて2人の会話に割り込んだ。

2つの鋭い視線がキングに刺さる。

街を統べるキングなのに、この扱いなんだね。

ちょっと可哀想になったよ。


「樹、落ち着いて話そうよ。落ち着いて」

「落ち着いてるわよ、失礼な」

私まで睨まれた!

怖いんだよ、この座った目が。


少しして飲み物が運ばれてくる。

持ってきてくれたのは 運転手の西川さんで、さめざめとしたと社長室の空気に複雑そうに眉を寄せてた。


うん、その気持ちとても分かります。

良かったら、この場に留まってください。

もちろん、その願いは届かず、西川さんは飲み物を置くと一言も発すること無く、退避だとばかりにそそくさと出ていった。


う、裏切り者~。

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