第83話

エレベーターで最上階まで一気に上がり、豪華な社長室のドアをノックすると、中から返事が返ってくる。


「どうぞ入ってください」と。

聞こえた三村さんの声にドアを押し開けながら、とうとうS同士の対面になるのかとチラリと隣の樹を見やった。

三村さんと樹って同種のタイプだと思うんだよね、やっぱり。


「なによ?」

目が合うと訝しげに眉を寄せた樹。


「あ、いや、なんでもないよ」

慌ててごまかした。


竜虎の戦いだの始まりだな、なんて思った事は絶対に秘密だ。

万が一バレでもしたら後でどれだけ嫌味を言われるか分かったもんじゃない。


「失礼します」

「瞳依ちゃん、お疲れぇ」

聞こえてきたキングの甘える様な声に意識を戻すと、窓際のデスクに腰を下ろしたキングが嬉しそうにひらひらと手を振ってた。


横目に映った樹の眉間には深いシワが刻まれる。

完全にキングの事を危ぶんでるな、これは。


「はぁ、お疲れ様です」

一応軽く頭を下げて挨拶する。


「ようこそいらっしゃいました。そちらのソファーにおかけください」

相変わらずの通常営業でキングを無視した三村さんが、樹に視点を当てて微かな笑顔を貼り付け近付いてきた。


「突然の訪問にも関わらず時間をいただきありがとうございます」

樹もまた笑顔を貼り付け軽く会釈する。

彼らの互いに見め合う瞳は、鈍く黒光りしている。

どこかで戦いのゴングが聞こえた気がした。



私達がソファーに座ると、キングもいそいそとソファーへやって来た。

三村さんは自分のデスクから内線をかけ、飲み物を頼んでいる。


「よく来てくれたね。俺が君の会いたがってた斎賀結翔だよ」

対面のソファーに腰を下ろしたキングが甘いマスクで樹に名刺を差し出しながら微笑んだ。

そんなにフェロモン出しっぱなしにしなくても大丈夫ですよ。


「こちらこそ、時間を作ってくださってありがとうございます。瞳依の保護者兼親友の大谷樹です」

保護者って所をやたらと強調した樹は、名刺を受け取って挑戦的に微笑んだ。

笑ってない瞳はキングを捉え、彼の深層心理を探り出そうとしてる。


初っ端から、グイグイいくのね、樹。

隣で呑気にそんな事を思った。


「秘書の三村快斗です。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

三村さんの差し出した名刺を受け取り、見ることなくポケットにしまい込んだ樹。

この2人から発せられる黒黒とした空気はやたらめったら重い。


樹さん、初っ端から臨戦態勢ですか?

三村さんと樹の仮面笑顔の応酬に、寒気がするのは、気のせいかな。

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