第82話

終業時間を迎え、制服から私服に着替え終わると、帰り支度をしている数人の同僚に見送られてロッカールームを出た。


今日は嫌味を言う人達と遭遇しなくて良かった。

いつもなら、二言三言苦言を呈してくる連中が居たりするんだよね。


見送ってくれた人達は、気さくに話しかけてくれるし嫌味なんかも言ってこない人達だ。

女の世界って、本当に色々と面倒臭いと思う今日この頃である。


ちなみに伊藤先輩はロビーの飾り時計の針がピッタリと5時半を指した瞬間に、スーパーダッシュで受付から居なくなった。


なんでも今日は医者の卵達との合コンがあるらしい。

いつもにも増して気合の入った化粧をしてる理由はそれだったらしい。


毎日楽しそうに生きてて羨ましい限りだな。



ロビーに出て樹の待つ場所へと急ぐと、彼女の周囲にはちょっとした人垣が出来てた。

声を掛けようかと遠巻きにしている男の人達は、タイミングを見計らってるのか容易には近付かない。


まぁ、これだけ近寄ってくるなオーラを出されたら、声なんて掛けられそうにないけどね。



「樹、待たせてごめんね」

ソファーに座って参考書を読んでいた樹に声をかける。


「大して待ってないわよ。参考書読む時間に当てられたし。もうすぐレポートの提出期限なのよ」

そう言いながら医学の参考書を閉じると、通学バックにそれをしまった樹。


「そんな忙しい時期に来てもらってごめん」

「馬鹿じゃない? 何を謝ってるのよ。私が来たくて来たんだから問題ないわ」

今日も素晴らしく女王様です。


「なら、いいけど。じゃあ行こう。向こうのエレベーターで最上階に上がるんだよ」

キングとの待ち合わせは社長室。

人目を気にしなくても良いのでそこになった。


「分かったわ」

立ち上がった樹は相変わらず背が高くてカッコいい。

私ももう少し身長が欲しかったな、なんて思いつつも並んで歩き出す。


樹に集まる視線がこれ以上増えるとウザいもんね。

それに、樹がここでキレるのはありがたくない。

この子ってば、誰が相手であってもはっきりと物申すタイプだから。


「広くて綺麗な会社ね」

「うん」

「瞳依もしっかり受付の顔になってるみたいで安心したわ」

「仕事にも慣れたし、過しやすい環境だか心配いらないよ」

「なら良かった。無理矢理就職させられたから大丈夫なのか心配だったしね」

「ありがと」

樹と会話しながら通路を進むとエレベーターまではすぐだった。

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