第69話

「社長、何を言ってるんですか。まったく」

呆れ顔の三村さん。


「今度のパーティーのドレスそろそろ用意しなきゃだろ」

キングの言葉に、忘れていた記憶が蘇る。


あぁ、そう言えばパーティーでキングのパートナー務めなきゃいけなかったんだ。

どんよりと重くたくなる気持ち。


「社長は裏予約があるので、ドレスを買いに行くのは俺が連れていきます」

ピシャリと三村さんが言うと、

「えぇ〜快斗だけずるい」

不服そうにキングが抗議声を上げた。


「やっぱり、パーティーは私も行かなきゃいけないんですか?」

少しの期待を含んで言ってみると、

「ええ。業務命令です」

取り尽くしまもなく言われた。

三村さん、私には荷が重すぎます。


「瞳依ちゃんのドレス、俺が選びたい」

「それは無理ですね」

「···チッ、うぜぇ」

黒いキングが登場した。

スイッチ入るのはやっ!


「やりたい事を主張したいならば、早く周囲の整理をする事ですね」

さぁ、さっさと片付けましょう、私に向かってそう言うと三村さんは作業を再開させる。


キングが悔しそうに顔を歪めて、溜め息をついていたのがとても印象に残った。

この人はどうしてこんなにも私を構おうとするんだろうな。


それに、キングが前より裏予約に積極的じゃなくなってるのはどうしてだろう。

楽しくて仕方ないって感じだったのに、最近はおざなりな感じがするし。


まぁ、裏予約が無くなっても、私には普通の受付係の仕事があるから、どっちでもいいんだけどさ。


「瞳依ちゃんに似合うドレスを選らんであげてよ。お金に糸目はつけないからさ」

「ええ。そうしますよ」

2人共、平然とした顔でそんな事言わないで欲しいよ。

一回しか着ないドレスなのに、高額な物なんて必要ないに決まってる。


「あの、そんな良いの要らないと思いますけど」

「ダ〜メ! 瞳依ちゃんのドレスはパーティー会場で一番良いのじゃないと」

「いやいや、それはちょっと...」

キングは何を言ってるんだか。

だいたい、そんなことしたら悪目立ちしちゃうじゃない。


「社長が言う事は少し大袈裟ですが、社長の隣に立つのならそれなりの服装でないと困るんですよ」

「はぁ...」

さいですか。

別に隣に立ちたく無いんですけど、そう言うならもう好きにしたらいいと思う。


私には分からない世界だし、そうする必要があると思うなら、そうしてくださいよ。

少し投げやりな気分になった私は、ノートに書き込む手をいそいそと早めた。

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