第63話

「ねぇねぇ、今日はキングの誕生日だよね」

「そうなのよ。デート出来なくてもプレゼントぐらい渡したいよね」

「うん、渡したい」

近くの席から聞こえてきた2人連れの女の子達の会話にギョッとする。


そう言えば今日だったなと思いつつ、届いたばかりのアイスカフェラテを一口飲んだ。

冷たくて美味しい。

熱された体を冷やしてくれる。


「でも、どうやって渡す?」

「出待ち?」

出待ちって、アイドルか!


第一、出待ちしたくてもキングの居場所分かんないよね。

ちなみに、私は今日のスケジュールを知ってるけど。

もちろん情報漏洩なんてしないけどさ。


「SNSに目撃情報アップされてないかな」

「あ、それあるかも」

あんのかよ! 個人情報保護法どこ行った。


本当、最近はプライベートも何もあったもんじゃないよね。

有名人って大変そう。


テーブルに頬杖をついて、ぼんやりと他人事の様に聞いていたら、女の子の1人と目があった。

ヤバい、と慌てて目を逸らす。

見たことのない顔だったから、私が予約係をしてるって知らないだろけど念の為だ。


「うわっ! あの子凄く可愛い」

「本当、可愛いね」

ハイテンションで話題にされた。

そりゃどうも、と思いつつ、顔を逸したままストローをくわえる。


「可愛いってだけで色々と得するんだろうね」

「だよねぇ」

いやいや、何勝手なこと言ってくれてるの。

得する事なんてこれっぽっちもないわ。


変な人に取り憑かれたりするんだからね。

ストーカーとか、変質者とか...遠い目をして溜め息をついた。

色々あったよ、ほんとさ。


「それより、キングの誕生日どうする?」

「う〜ん、出没場所知りたいよね」

「とにかくSNS探そ」

「うん、そうしよ」

私から興味をキングに戻したらしい2人組はスマホを弄りだす。

キング、ご愁傷様。

お誕生日、色々と頑張ってくださいよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る