第60話
「本当、そうよね。仕事はきちんとしなきゃね」
お、伊藤先輩も一応常識人だったんだね、ギャルだけど。
「ちょっとぉ、今、失礼なこと考えたでしょう」
「考えてましぇん」
ほっぺを引っ張るのは止めて。
地味に痛いから。
「あら、瞳依のほっぺってお餅みたいに伸びるのね」
ケラケラ笑いながら伸ばすんじゃない!
「はなひて、くだひゃい」
「面白~い。美少女もこう見るとただの人ね」
「いひゃいでしゅ」
普通に見ても、ただの人だよ。
「仕方ないわね」
伊藤先輩が名残惜しそうにほっぺから手を離してくれたので、痛みを緩和させる為にすりすり擦る。
もう、痛いな。
「人のほっぺを面白いからって、伸ばさないでくださいよ」
恨めしげに伊藤先輩を見上げた。
「減るもんじゃないんだからいいじゃない」
「地味に痛いんですよ」
減るとか減らないとか言う次元じゃない。
「瞳依イビりはこれぐらいにして続きを話すわよ」
「そうしてください」
「受付係の彼女は勤めて一年ぐらいして、とうとう事件を起こしたのよ。それが今から半年前の話」
「事件ですか?」
首を傾けた。
「そう大事件よ」
「へぇ」
「ちょっと興味持ちなさいよ」
「あ、すみません」
目を吊り上げた伊藤先輩に謝っておく。
もっと私が食いつくと思ってたんだろうけど、それは無いんだよね。
「本当、暖簾に腕押しとはこの事ね」
お!! 意外にもことわざまで知ってるんだ。
「聞きますから続きをどうぞ」
掌を上にして手を差し出し、にっこり微笑んでみる。
「はぁ、もう。受付係の女はキングと予約者が入ったホテルの部屋に包丁を持って乗り込んだのよ」
あら、サスペンス。
今は無き火サスだ。
「キングの相手の女は脇腹を刺されて重症、キングも掠り傷だったけど怪我を負ったのよ」
「それは大事件ですね」
大事件と言うか、警察沙汰? ってやつだね。
「でしょ?」
「はい」
「女の父親が大きな不動屋さんの社長で金に物を言わせて相手の女と示談にしたんだけどね。キングの逆鱗に触れた女はこの街から永久追放くらって、キングへの接近禁止命令も出されたってわけ」
「そうだったんですね」
この間の女性にしても、2番目の受付係の人にしても、短絡的過ぎるね。
良い大人なんだから、力技で何も出来ないって気づかないと。
「女の受付係はもうごりだってキンクが言って、それ以来採用しなかったのに、キンク自らが瞳依を連れて来た事に、みんな驚いたわよ」
それは私も驚きましたって。
無理矢理面接されたんだもん。
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