第58話
あの日からキングの予約日が何故か激減した。
毎日だったそれは、一夜にして週ニになり、1日の定員も一名となった。
それにもとなって、予約者からぼやかれる事も多くなった。
私のせいでは無いので、食い下がられても困る。
「どうしてなの? こんなのじゃ順番が回ってくるのが遅くなるじゃない」
受付カウンターに両手をついた女性に詰め寄られる。
「はぁ···そう言われましても、私の方もキングから指定された日にしか予約は入れられないんですよね」
「そこを何とかしなさいよ」
「私にキングを動かす力はありませんよ」
一社員の私がキングを動かせるはずなんて無いでしょうよ、普通に考えて。
「ほっとうに、役立たずね。もういいわ」
叫びか怒鳴りか区別の出来ない声を上げカウンターを両手でバンッと叩いた女性は、長い髪を振り乱すようにして入り口へと去っていく。
「はぁ···役立たずだって怒られた」
大きな溜め息をついて、何となくそう口にした。
「最近、色々と大変ね。まぁ、頑張りなさいよ」
赤い口紅を塗った口元を緩めて楽しそうに言われてもまったく持って、慰められてる気がしないよ。
「伊藤先輩は気楽でいいですね」
普通の受付だけならこんなに疲れないもんね。
憂いをたたえた目で恨めしそうに伊藤先輩を見た。
「当たり前じゃない、気楽だもの」
「あ〜はい、そうですね」
「何よ、その投げやりな言い方」
「投げやりにもなりますって。毎日こんなのばっかりじゃ」
私は苦情受付センターじゃ無いんだし、本当いい加減にしてほしいよ。
「まぁ、そのうち女の子達もこの状況に慣れるわよ。第一キングにそのつもりが無かったらデート出来ないんだし、諦めるしかないもの。それに、今までが異常だったのよ」
「そうですけど···」
頷いたものの、この状況はかなり疲れるんだもん。
気が滅入る度に、これも給料給料と頭の中で囁いてる自分に虚しくなる。
「今までの受付係の中で瞳依が一番苦労人かもねぇ」
キャハハと笑う伊藤先輩。
だから、本当笑ってる場合じゃないんですってば。
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