第56話

キングって普段何を考えてるのか分からないチャラ男に見せてるだけで、本質は違うんだろうな。


昨日の夜に見た姿だって、私の知らない姿だったし。

いつだっておどけてるくせに、あんな顔も出来るって事に驚いた。


あれだって、街を統べるキングの凄さの一辺を垣間見ただけに過ぎないんだろうね。


「キングが駆け付けてくれた時、本当にホッとしました。襲撃を受けたことなんて生まれて初めてなんですよね」

あの時は必死に強がってたけど、やっぱり怖かった。


可笑しいな今頃手が震えてくるなんて。

小刻みに震える自分の両手を机の上で握り締めた。


「大丈夫ですよ。もう何も心配いりません。社長は必ずあなたを守ります」

そう言った三村さんは私を安心させるように微笑む。

普段、無表情の三村さんの微笑みは大変貴重で大変優美なモノだった。


「はい」

キングが守ると言ったならば、きっと大丈夫なんだろうと思えた。


私の為にデートを切り上げてまで助けに来てくれたキングに胸が熱くなる。


心の奥の、そのまた奥に湧き上がった小さな感情に私は気付かない振りをした。

その気持ちが、自分を苦しめるものになる事を知っているから。


『瞳依ちゃん』甘い笑みを浮かべて優しく私の名前を呼ぶキングの姿が頭に浮かんだ。

育てちゃいけない気持ちは、箱に入れて鍵をかけよう。


「どうかしましたか? 具合でも悪くなったのでしょうか」

黙り込んだ私を不思議そうに見つめる三村さんに、首を左右に振った。


「大丈夫です。昨日の事を少し思い出してしまっただけです。すみません」

「あんな怖い思いをしたんですから仕方ありません」

「···そうですね」

肩を下げ俯いた。

三村さんの洞察力に優れた視線が怖かった。

私の心の中を知られてしまいそうな気がして。


「それに、社長の本来の姿を見て驚いたでしょう? でも、あれが本物のキングです。この街を統べる誇り高き王者は残忍で美しい」

三村さんの言葉に、顔を上げ目を見開いた。


真剣な表情をした三村さんに、私の何かを見透かすように見つめられ、あまりの居心地の悪さに思わず視線を逸らす。

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