第55話
「それだったら俺が居てもよくない?」
「会長からの連絡がそろそろ社長室に入る頃ですよ」
三村さんはスーツの裾で隠れてた腕時計を確認した後、それをキングへと見せた。
「マジか...仕方ないから戻るか。親父は時間に煩いしな。社長室の電話じゃなくてスマホにかけてくれたらいいのに。またね、瞳依ちゃん。名残惜しいけど行くよ」
残念そうな顔でキングはひらひらと手を振ると、社長室へ直通するエレベーターの方へと早足で向かった。
「本当に、あの人は何時までチャラ男を装っておくつもりでしょうね」
小さく呟く様に言った三村さんは、少し悲しそうな目をしていた。
キングにも三村さんにも、私には計り知れない事情があるのかも知れないな。
三村さんと2人で、空きのプレートの下がった会議室へと入る。
ガランとしたそこには、部屋の中央に6人掛けの会議用の机と大きめのホワイトボードがあるだけだ。
三村さんと2人きりってキングとは別の意味で緊張する。
どう言っていいか分かんないけど、とにかく三村さんは綺麗に整った美形だけどその無表情は近寄りがたい。
まぁ、悪い人ではないんだけどね。
「どうぞ、座ってください」
そう促され近くのパイプ椅子に座った。
「昨日は申し訳ありませんでした。完全なこちらのミスです。もっと早くあの女の動きを察知するべきでした」
会議机を挟んで対面に腰を下ろした三村さんが、深々と頭を下げた。
そこまでされると逆に私まで申し訳ない気持ちになってくるじゃん。
「あの、もういいんで頭上げてください。昨日は助けに来てくれましたし、無事だったんで私」
「本当に怪我が無くて良かったです。社長の野生の勘もたまには役に立ちますね」
「えっ?」
後半意味の分からない事を言われ首を傾けた。
キングの野生の勘って、なんだろうか。
「実はあんなに早く駆け付けられたのは社長が市原さんの事が気に掛かるとデートを早めに切り上げ、歓迎会の会場周辺に戻っていたからなのです」
「···そうなんですね」
三村さんの言葉が胸の中にストンと落ちた。
だから、あんなに早く来てくれたんだね。
連絡して直ぐにキングが駆け付けてくれたから、私は何もされずに済んだ。
あの時はどうして早かったのかとか考えてる余裕は無かったけど、今思えば普通はデート中のキングがあんなに早く駆け付けられるはず無いもんね。
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