第54話

「め〜いちゃん」

「うわっ、何するんですか!」

食堂からの帰り、廊下を歩いていた私の背後から抱きついて来たキングに眉根を寄せる。


「昨日ぶり。元気だった?」

私の解放したキングは後ろから私の顔を覗き込んで首を傾けた。


「昨日休んだおかげで復活しました。ありがとうございます」

「良いよ。迷惑かけたのはこっちの方だしね」

甘い笑みを浮かべて微笑むキングにドキリとする。

近距離でその顔は心臓に悪いので止めて欲しい。


「あの方の処理は済ませましたので、この街に現れる事はもうありませんので安心してください」

キングより少し遅れてやって来た三村さんが言う。


「あ、そうなんですね」

詳しい話は聞くつもりが無いので軽く受け流す。

人には時として、知らない方が幸せな事もある。


「体調に不備はありませんか?」

「はい。キングに伝えたんですが、昨日お休みを頂いたので回復しました」

「それは良かったです」

三村さんの無表情は相変わらずだけど、眉が安心した様に少しだけ下がった気がした。


「瞳依ちゃん、今日は晩御飯食べに行かない?」

「キングの予定は今日も詰まっていたと思いますが」

私の相手をしてる場合じゃないと思う。

胡乱な目を向ける。


「あ、まぁ、そうなんだけどね」

困った様に眉尻を下げたキングは、何だかいつもと様子が違った。


私、何か気に触る事でも言っただろうか。

小首を傾げて考える。


「市原さん、裏予約の件で変更点があるので、少しそこの会議室で打ち合わせをしたいのですが」

「はい、大丈夫です」

三村さんの言葉に思考を断ち切り、頷いた。

変更があるならきちんと伝え聞かないとだよね。


「社長はこのまま社長室へ戻られてください」

「ええ〜! 快斗、瞳依ちゃんと2人きりで何するつもりだよ」

何故か怪しむような顔で三村さんを睨んだキング。


「何を馬鹿なことを言ってるんですか。業務的な打ち合わせをするに決まっています」

呆れ顔でキングを見る三村さんがどことなく疲れて見えた。


一日中、キングの相手をしてる三村さんは色んな意味で疲れてるんだろうな。

キングって良い意味で自由奔放、悪い意味でゴーイングマイウェイだもんね。

本当、三村さんには日頃から頭の下がる思いです。

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