第53話

樹は本気で怒るとめちゃ怖い。

ピリピリした空気を醸し出す樹に愛想笑いで肩を竦める。

 

「まぁ、そうなんだけどさ」

「瞳依は楽天家過ぎる。もう少ししっかりしないとまた危ない目に遭うわよ」

「あ、うん。気をつける」

「もう、本当に気をつけてよ」

「は〜い」

「本当に分かってるのかしらね」

やれやれと首を左右に振った樹の目は私の事が心配だと語ってた。


樹に心配かけないようにしないとな。

心労で倒れちゃうわ。


「いつもありがとうね」

「馬鹿ね。瞳依に心配かけられるのは慣れてるわよ」

「あ〜そうですね」

樹のぶっきらぼうな言い方にフフフと笑った。


「それにしても瞳依は変なのばっかり集めてくるわよね。類友かしら」

解せぬ。

私まで変だと言われてる気がする。


「キングとは人種が違うと思うけど」

「そうとも言い切れないわよ。とにかく、一度キングに会って苦言を呈する方がいいかも知れないわ」

「えっ! 樹が会うの?」

「当たり前でしょ。一言言わないと気が済まないのよ」

キングに物申すと言ってる彼女は最強な気がした。


「まぁ、キングに言っとく」

「そうね。今度会社を訪ねるわ。都合の良い日。聞いておいて」

「了解」

近い内にキング対樹の構図が見られるらしい。

街を統べるキングにでさえ、きっと容赦ない苦言を呈すのだろうと予感した。


「まぁ、小言はこれぐらいにして、夕飯でも食べに行きましょ」

小言を食らってたのか、私。

そう思ってもそれを口にしなかったのは、さらなる樹の攻撃を受ける事になるのが分かっていたから。


「了解。用意してくるから待ってて」

「きちんと化粧ぐらいしなさいよ」

「え〜晩御飯食べに行くだけでしょ?」

「20歳を超えた女は、どんな時も化粧を欠かさないものよ。瞳依はもっと自分磨きを頑張りなさいよ」

「···着替えてくる」

言い返しても説教が振り返されるだけなので、素直に従う事にして立ち上がった。


この間、樹と買い物に行って購入した水色のワンピースなら文句言われないよね。

ベッド脇にあるクローゼットを開けるべく歩き出したのだった。



『瞳依ちゃん』私の名前を優しく呼ぶキングの声が、頭の中でなぜだか突然リフレインした。


な、な、なんだこれ。

突然浮かんだそれに戸惑いながらも、それを振り切ろうと頭を左右に振って誤魔化した。

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