第52話

ウゲッ、出た野菜ジュース。

しかめっ面になるのは仕方ないよね。


体格の小さい私を心配してなのか、樹は知り合って以来、事ある毎に野菜ジュースを勧めてくる。

正直、私はあまり好きじゃない。

もっと美味しい種類のあったよね? と思うぐらい緑の野菜を主とした野菜ジュースを選んで買ってくる樹。


「何よ、その嫌そうな顔。これは身体に良いんだからね」

そんな睨まなくても飲みますよ。


「ありがたくちょうだいいたします」

全てひらがなになってしまったのは、私の心の現れだと思って欲しい。

買ってきた樹本人は飲まないんだよね、これ。


「不服そうね」

「いえいえ、めっそうもない。頂きます」

ストローを刺して野菜ジュースを飲む。

うわぁ、不味いことこの上ない。


「瞳依はしっかり栄養取らなきゃ大きくなれないのよ」

「···もう、なれないから」

高校入学ぐらいから身長の伸びはない。

成人女性が驚異の成長を見せたら、それはそれで驚きだよね。


「で、何故にキングのとばっちり受ける事になったのよ」

「ああ、それね」

送ってもらう車内でキングが教えてくれた事を思い出す。


あの彼女は随分と前の遊び相手で、キングのお気に入りは自分だと触れ回り他の遊び相手に脅しを入れたり暴力を振るっていたらしい。


それが発覚して、ブラックノートから追放となったんだけど、どうしてもキングを忘れられなくて、ブラックノートを奪う事を思いついたらしい。


奪った所で、彼女が元に慣れるはずもないのに、かなりのご乱心だと思う。

現在のブラックノートの保持者の私をノートを奪う為に少し前から付け狙っていたと聞いた時はゾッとした。


私の周囲に異変を感じたキング達は密かに私に護衛をつけ、相手の出方を見ていたという。

護衛がついてるなんて、まったく分からなかったんだけどなぁ。


いつまでも私に隙が出来ない事に痺れを切らして、光輝君と2人になった所で強行突破しようとしたらしい。


彼女は短絡的で面倒な人だと思う。

どこかの会社令嬢だって言うから、甘やかされて舐めた人生を生きてきたんだろうなと予想は出来るけどね。


「本当に完璧なとばっちりね。あの男の尻の軽さのせいじゃないのよ」

そう言って怒る樹の眉間には深いシワが刻まれる。


「まぁ、それも含めてお給料も待遇も優遇されてるから、いいけどね」

「そんなの何も無かったから言えるだけじゃない」

樹がめっちゃ怒ってる。

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