第50話

軽目の昼食をした後、自宅まで送ってくれたキングは名残惜しそうに帰っていった。

キングの運転する高級スポーツカーは乗り心地抜群だったよ。

この人も自分で車を運転する事もあるんだと、変な関心をしてしまったのは内緒だ。


ブランチはちょっとお洒落なカフェで取ったけど、キングと一緒だとあちこちから視線を集めて、居心地が悪かったのなんのってない。

2人きりで出掛けるのは面倒だ、とつくづく思ったってのが感想。


「やっぱ、自宅が一番だ〜」

お気に入りの一人掛けのソファーに座って、両手を高く上げ大きく伸びをした。


あんなに疲れるご飯を食べたのは初めてだったかも知れない。

キングって日常的にあんな視線に晒されてるんだと初めて知ったよ。

あれは駄目だ。


カフェにいた女性達が目を輝かせて、あわよくばキングの視界に入ろうとしてたのは必死すぎて、ちょっと引いた。


帰宅してすぐに飲んだ二日酔いの薬がようやく効いてきたのか、頭の鈍痛は随分ましになったものの、身体の軋みは取れてない。

あんなに必死に走ったのなんて高校卒業以来初めてかも知れない。





「お邪魔するわよ」

玄関でガチャガチャと音がして、預けた合鍵でドアを開け樹が入ってくる。


学校帰りだと思われる彼女は、アクティブな装いだ。

その手にはコンビニの袋がぶら下がっていて、もう片方の手には通学バックが握られている。


「いらっしゃ〜い」

ソファーの背もたれにだらりと身体を預けたまま樹を迎え入れる。

1LDKの室内を大股でやってくる樹の顔は呆れ顔だ。


「随分とだらけてるわね」

苦笑いをした樹はテーブルを挟んで対面のラグに腰を下ろす。


「だって、二日酔いと筋肉痛でダウンだもん」

あちこち痛いんだよ。

今日、休みにしてくれたキングには感謝だな。

こんなに怠い身体じゃ仕事は無理だっただろう。


「本当に無事で良かったわ。キングと関わることになってから、何かに巻き込まれやしないかと気が気じゃなかったのよ」

キングに捕まって強制的に彼の会社に就職することになったと伝えた時、樹はかなり難色を示した。


どうしても避けられない事態になったから仕方ないと最後は納得してくれたけど、逐一報告することを義務付けられたのはそれほど遠くない過去の話。


今日も帰ってきてすぐに通話アプリで簡単に説明を入れたら、授業が終わったら直ぐに来るって言い出し今に至る。

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