第48話
キングと2人っきりのこの空間は耐え難い。
絶え間なく無駄に垂れ流されるこの色気に、耐えられる人間がいたら教えて欲しいよ。
「瞳依ちゃんは手厳しいな」
掴んだままの私の腕をもみもみするのは止めて。
「ちょっと、離してくださいよ」
「え〜腕ぐらい握っててもいいじゃん」
「良くないです。ほら、離してください」
パシッと掴まれた手を叩けば、キングの手はいとも簡単に離れた。
「はいはい。瞳依ちゃんに嫌われたくないから、言う通りにするとしますか」
くすくす笑ってキングはベッドから立ち上がった。
鍛え上げられた筋肉質の上半身は無駄な脂肪なんてなくて、黒いスラックスに隠されたスラリと伸びた足も均等の取れた肉付きをしてるであろうことが伺えた。
だらけた生活をしてるだけかと思ってたけど、キングもきちんと身体を鍛えてるんだね。
そう言えば、昨夜も圧倒的な強さをだったと思い出す。
斎賀結翔がキングと呼ばれる由縁は、圧倒的な強さと彼の持つ統率力から来るものかも知れない。
改めて、凄い人なんだと認識する。
「俺に見惚れてる?」
ゆるりと口角を上げて私を見据えたキング。
「まぁ、そうですね。昨日からキングの凄さに感服してます」
正直に答えてみた。
するとどうだろうか、キングは照れ臭そうに視線を逸した。
えっ? なんか不味いこと言ったかな。
「無自覚って、罪だと初めて知ったよ」
「なんですか、それ」
よく分からない事を言われたが、そのままスルーして私もベッドから降りた。
早く帰る支度しよう。
二日酔いの薬も飲みたいし。
この怠慢な痛みをどうにかしなきゃ、思考能力が衰えたままだしね。
それに、昨日の無理な運動で、身体のあちこちが悲鳴を上げてるよ。
温かいお風呂に入って、しっかり眠って回復したい。
自分の体力のなさを、今回しみじみと感じた。
「じゃあ、帰りますね」
ベッドの脇に置かれてた自分のバッグを手に取って歩き出す。
「瞳依ちゃ〜ん!」
「だから、その呼び方止めてくださいってば」
私は4歳児でもないし、森の主に知り合いは居ない。
「ネコバス好きだよね?」
そんな首を傾げて可愛く聞いても、
「好きじゃねぇわ」
としか突っ込めない。
「じゃあ、とうもろこしは?」
「母親の病院にも持ってきません」
だいたい、うちの母親はとっくに亡くなってるわ。
キングは、いつまでト○ロを押してくるつもりだろうか。
なんとも言えない溜め息が漏れた。
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