少しずつ変わる何か

第45話

誰かが頭を撫でる優しい手の感触に、意識が浮上していく。

だけど、まだ目蓋が重くて目は開けられない。

ふわふわとした感覚に身を任せてたゆたう。


優しく撫でる大きな手、小さな頃に経験したそれにとても似ていて。

熱を出して寝込んだ時に、父親がこうやって撫でてくれたっけ。

こんなのどれぐらいぶりかな。


心配無いからねって撫でてもらうのが大好きだった。

お母さんがいない分をお父さんは一生懸命それを補ってくれてたよね。

あの頃は、とても幸せだった気がする。


いつから、小さな幸せを見つけられなくなったんだっけ。

今はもう側に無い小さな幸せを思い出し、胸が締め付けられた。


あれ···私、いつ実家に帰ったのかな。

それに、あの人はもう私の頭を撫でたりなんかするはず無い。

だって、今の父親にとって私はそんな対象じゃないもん。


新しい母親が出来て、幼い弟が生まれ、彼の中での私の存在はどんどん小さくなった。

冷たく突き放された訳でも、愛されなくなった訳でもない。

ただ、居場所が無くなったと感じてしまっただけ。


まだ眠いから、起こさないで。

疲れてるから、もう少し眠らせて。

目が覚めたら、いつもの私に戻るから。


「お父さん」

目尻を伝った一筋の涙。

「好きなだけ眠っていいよ」  

そう言った誰かの指が、涙を拭ってくれたような気がした。





頭の痛みに身体を身じろぎして、温かい何かに包まれている事を知る。

上手く身動き出来ない体に、ゆっくりと目を開ければ目の前には肌色で厚みのある胸板があった。


む、胸板?

どうした、何があった。

パニック気味に、その胸板から離れようともがくと、くすくすと笑う声が聞こえた。


「ククク、何やってんの? 瞳依ちゃん」

甘い声が寝起きの頭に響いた。


「えっ? キング···ど、どうして」

こんなことになってんの。

二日酔いでガンガンと痛む頭で、色々考えた。

何がどうしてこうなった。


キングと同じベッドで寝てるとか、私の貞操はどうなってるの。

慌てて自分の身体を確認する、上着は着てないもののシャツは昨日着ていた物だ。

ホッとして胸を撫で下ろした私は改めて、自分を抱き締める腕から脱出を試みた。


「キング、すみません。離してもらえますか」

「え〜どうしようかな」

色気を含ませた笑みを浮かべたままのキングが私を見下ろす。

無駄に色っぽ過ぎるキングにドキッと胸が跳ねる。


「どうしようかなじゃなくて、離してください」

心臓が脈打ちすぎでパンクする前に、止めて欲しいんですよ。

こうなってる状況も分からないまま過ごすのは困る。

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