第44話

結翔Side


意識を失った瞳依ちゃんを両手で抱き上げる。

力のない身体はぐったりしていた。

小さくて細身の彼女にほとんど重さは感じない。

腕の中にいる目を瞑った瞳依ちゃんが見せる安心した顔にドキッとした。


「何? この可愛い生き物」

顔が自然と綻んだ。


「キング、警察が来る前に撤収しますよ」

快斗が駆け寄ってくる。


「そうだね。騒がしくなって瞳依ちゃんを起こすのは忍びないし」

「ええ、彼女を早く安全な場所へとお願いします」

「後は任せても大丈夫?」

「もちろんです。彼らはいつもの所に放り込んでおきます」

「分かった。じゃあ頼むね。亮矢、行くよ」

快斗に頷いて、倒れた男達の側にいた亮矢がこちらに走り寄ってくるのを確認して歩き出す。


「あ、そうだ。光輝、大丈夫?」

俺達が来るまで1人彼女を守ってくれてた光輝に、お礼言っとかないとな。

立ち止まって振り返る。


「はい、問題ないです」

そう言った光輝の顔は殴られたりしてあちこち擦り切れてはいるものの、大きなダメージは無さそうだ。


「そう。今日は助かったよ。俺が来るまでよく瞳依ちゃんを守ってくれたね」

「いえ、守れて良かったです」

「これからも頼むよ」

「はい、もちろんです」

力強く頷いてくれた光輝に満足して微笑み、今度こそ背を向けた。


青い顔でこちらを見てる女の横を素通りすれば、縋るような声が聞こえた。


「···き、キング」

蚊の鳴くような女の小さな声。

こいつは誰だっけ?

一夜の遊びの女はいちいち覚えてないしな。

でも、関わりがあったのは間違いないだろう。


「二度と俺の前にその顔を見せないでね。今度こそ殺しちゃいそうだから」

殺気を含ませた声でそう告げると、女はカタカタと震え出した。

怖がるなら初めからこんなくだらないことをしないで欲しいよ。


「そ、そんな···私、本気で」

「本気だから何? 俺の逆鱗に触れておいてただで済むって思ってないよね。快斗、いつもの様に処理しといて」

女に冷たい一瞥を向けた後、快斗に指示を出す。

 

「分かりました。二度とこの街の土を踏むことが無いように処分しておきます」

「そう」

それならいい。

瞳依ちゃんをまた狙われちゃ困る。

身じろぎした瞳依ちゃんに目を細め、ゆっくりと歩き出す。


女はそれ相応の報いを受ける。

多分、もう日の目は見られない。

自分がしでかした事の大きさをその時に痛いほど知る事になるだろう。

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