第43話

「瞳依ちゃん」

名前を呼ばれて力を振り絞って見上げれば、少し困ったような、今にも泣き出しそうな複雑な顔をしたキングがいた。


でも、その瞳は、いつもと変わらない慈しみが溢れてた。

ああ、いつものキングだ。


「帰ろうか。疲れたもんね」

女性を殴る為に振り上げた拳を解いて、私の後頭部を優しく撫で付ける。


「···はい。もう色々と··げ、ん、かい···」

もう大丈夫だと安堵した途端に、全身の力が抜けた。

ズルズルとキングの体を這うように落ちていく体を、彼は慌てて抱き止めてくれた。


「あっぶない。瞳依ちゃん、もう大丈夫だからね」

キングのその言葉の中には色んな意味がきっと深まれる。


「···そう、ですね」

いつもの優しい瞳が私を見下ろす。

安心感に包まれる。


あ〜ヤバい、寝落ちするかも。

ダメダメ、起きてなきゃ。

そう思うのに、自分の意思に逆らって瞼がゆっくりと落ちていく。


「眠っていいよ」

優しい声が降ってくる。

ムカつくけど、この声は安心するんだよね。


私を抱きしめる温かい腕も、絶対に私を1人にしないって分かるから。

キングが元に戻ってよかった。

喧嘩が強いキングもいいけど、やっぱりいつものヘラヘラした感じじゃないと落ち着かないしね。



もう無理だ。

意識を保ってられそうにないや。

身体が欲するままに目を閉じた。

黒い闇の中へ意識は落ちていく。


「ヤバイな。本気で手放せそうにない」

キングが優しい目をして私を見下し、そんな事を呟いていただなんて知らない。


そして、次に目を覚ました時、私は自分の置かれた状況に驚愕する事になる。

別の意味で野獣の様な目をしたキングに出会う事になろうとは、この時の私は知る由もない。

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