第42話

孤独なキング···いつものあの軽いキングからは想像できなかった。

でも、今、目の前にいる彼は、確かに孤独に囚われてる。

あの光の宿らない瞳が、寂しいって訴えていた。


容赦く本能のままに暴れるキングが、怖い。

だけど、今すぐに抱きしめたいと思った。

何をとちくるったことを思うんだって自分でも思う。

でも、キングをこのままにしておけない気がした。


「残りはお前だけだよな」

そう言ってゆるりと口角を上げたキングは、恐怖に震え立ち尽くす女性に近づいて行く。


「三村さん、降ろしてください」

止めなきゃいけない。

だけどそれは、彼女を助ける為じゃない。

キングを闇から掬い上げる為だ。


「興奮して殺気立ってるキングは、危険ですよ。それでも行きますか?」

「はい」

三村さんを見つめる瞳に強い意思を込める。


「分かりました。キングをお願いします」

「はい。任されました」

頷いた私に三村さんは少しだけ安堵したように息を漏らすと、優しく足元から地面に降ろしてくれた。


「危険を感じたら、逃げてください」

「はい」

返事した後、私は駆け出そうと足を動かした。

でも、足がバンビみたいにガクガクして、思う様には進めなくて。

早く行かなきゃキングがあの女性に近付いちゃう。

必死に力を込めて足を動かした。


「女だからって容赦しねぇ。俺のルールに従えねぇ奴はこの街にいらねぇからな」

彼女の前まで来ると冷たく言い放ったキング。

歯をカタカタ言わせて全身で震え、涙を豪快に流す女性は、今にも倒れそうなほど血の気を無しくてる。


「死ね」

無表情でそう言い放ったキングは女性に向かって大きく腕を振り被った。

お願い間に合って! 最後の力を振り絞って走り寄った。


ポスッとキングの胸元に埋まるように倒れ込んだ。

あ~かっこつかないな、私。


「瞳依、どけ」

冷たいキングの声に、胸がギュッと締め付けられた。


「キング、もう眠いから帰りたい」

咄嗟に出た言葉がこんな陳腐な物だったとしても、誰も私を責められないと思う。

だって、この時の私の体は全てにおいて限界だったんだもん。


「···」

キングに無言で見下される。

あまりの恥ずかしさに俯いて、キングにギュッと抱きついた。

私を振り払ってまで、女性を殴ったりしないよね。


「ククク···フフフ、瞳依ちゃん可愛い」

急に笑いだしたキングの声はいつものそれに戻っていて、ホッとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る