第37話

どこからどう見ても嫌な感じのする男達は、人を小馬鹿にしたようにニヤリと笑いながら一歩、また一歩と距離を詰めてくる。


私を背に庇ったまま光輝君はゆっくりと後退し、首だけ振り返ると囁くように言葉を発した。

「瞳依ちゃん、俺があいつら引き付けてる間に人通りの多い所へ走って逃げれられる?」

「走れない事もないけど。結構なアルコールが入ってるから、あんまり自信ないかも」

眉を寄せて苦笑いした。

今の状態で急激に走ったら、多分酔が回る。

そうなったら、足元はきっと覚束なくなるだろうな。


「だよなぁ。俺がやるしかないよな。でも、3対1はちょ〜っと厳しいかも。とにかく時間稼ぐから瞳依ちゃんはキングに連絡入れて」

肩を竦め力なく笑みを漏らした光輝君。


「えっ? でも」

キングは今頃デート中だよね。

邪魔しちゃ不味くないかな。


「大丈夫。何も心配いらないから」

そう言った光輝君の強い目に私は素直に頷いた。


「ちょっと、何をコソコソやってるのよ。良いから、早くこっちに来なさいよ」

ヒソヒソ話してた私達に苛立ちを隠さず怒鳴った彼女の顔は、般若のお面みたいでせっかくの美人が台無しだと思う。


綺麗な服を着て、ゴージャスな感じなのに色々と残念な人だなぁ。

光輝君の影からこっそりと彼女を見て、それからゆっくりとポケットからスマホを取り出した。


「どこの誰か知らないけど。こんなことしてダダで済むと思ってるわけ?」

光輝君は女性を見据える。


「煩い! 御託は良いからその子を寄越しなさい」

ヒステリックに叫ぶのは止めて欲しいな。

頭にキンキンと響くから。


「どこのお嬢さんが知らないけど。止めるなら今のうちだよ。キングに会いたいなら、別の方法を取った方が良いと思うよ」

話を出来るだけ長引かせようと話しかける光輝君の後ろで、スマホを操作しキングに通話アプリでメッセージを送る。

お願い、気付いて。

簡単な場所と、助けて欲しい事を簡潔に送ったんだけど、キング来てくれるかな。

来てくれなきゃ困るんだけどね。


こんな、状況なのに緊張感が無いのは、きっと私の性格のせい。

小さな頃から、あんまり物事に動じないんだよね。

それが良いのか、悪いのか分かんないけどさ。

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