第36話

大きな交差線を渡り、自宅マンションへと続く路地へと足を踏み入れた時、それらは現れた。


「貴女、キングの受付係よね」

艶めかしい声の派手な女性が3人のゴロツキのような男をひき連れ、私達の行く先を塞ぐように立ちはだかった。


なんだか嫌な目つきをした4人の登場に、私を庇うように前に出た光輝君の纏う空気が殺気を帯びた。


あ〜ここで厄介な人登場か。

他人事のようにぼんやりとそんな事を思った。


この仕事についてから、いつかはこんな日が来るかも知れないとは思っていたけど。

まさか、今夜みたいな気分のいい日だなんて最悪だ。

アルコールが程よく染み渡って、心地よかったのにね。

楽しかった後に、これってかなり面倒臭いんだけどな。


「瞳依ちゃん、後ろに隠れててね」

首だけ振り返った光輝君が私を安心させるように話しかけてくれる。


「うん」

頷いて、大人しく光輝君の後ろに隠れる。

武道なんてからっきしの私には何も出来ることはないので、光輝君に従って守らうのがきっと正解だ。


「あんた達、何しに来た?」

光輝君が低い声で問い掛ける。


「少し後ろのお嬢さんに用があるだけよ」

感情の起伏の激しそうな厚手の化粧をした美女は、私を背に隠す光輝君を、煩わしそうに一瞥する。


「悪いけど、裏予約は会社でしか受け付けない事になってる」

「そんなの分かってるわよ。それが出来ないからこうしてわざわざ待ち伏せしたんじゃないの」

待ち伏せだなんて、相当な暇人だね、と思ったけど、それは口にしなかった。


この人は多分排除者に認定されてる人だろうな。

裏予約が取れるのは、三村さんが下調べをして問題無しと選別された人だけだもの。

何かしらの理由で、弾かれてるんだ。

だからそこ、こうやって強行に及んだに違いない。



「だったら、大人しく引いてもらおうか。キングの許可なくこの子に近付く事は許されてない」

「顔はいい男なのにムカつくわね。大人しくその娘を差し出しなさいよ。出番よ」

苛ついたように高圧的に言い放った女性は、男達に目配せをする。

頷いた男達がこちらへとにじり寄って来た。

どうやら、力技でねじ伏せようって言う魂胆らしい。


あぁ、実に面倒臭い。

一番関わり合いになりたくないタイプの人だな。

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