第35話

「良いですよ。どうせ、チビ助ですから」

諦め半分にそう言って溜め息をつく。


「め、瞳依ちゃんが中学生とか言ってないからな。ほら、小さくて妹みたいに可愛いって意味だし」

「光輝君、それ慰めになってないよ」

「えっ? いや、そうじゃなくて...あの、その」

焦ってしどろもどろになる光輝君を横目に、私はグラスに入ったビール飲み干した。


くそ〜! やけ酒だ、今日は飲んでやる〜。


「よしよし、ちび子、お代わりは何にする?」

「煩いですよ。酒ライムください」

頭をなでなでして来た伊藤先輩の手を払って、座った目で注文を告げた。


いいよいいよ。こんなもんさ。

樹と居たって、同じ様な事があるし。

こんなの慣れてるもん。

腐った私は、その後も豪快に飲み続けたのだった。





「皆さん、今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」

丁寧に頭を下げた。


「え〜! 瞳依、もう帰るの?」

「明日も仕事ですし、これ以上は体が持ちません」

飲みすぎて眠いんですよね、実は。

不服そうな伊藤先輩に、ごめんなさいと謝って歩き出す。


21時前にお開きになった歓迎会。

2次会に行くと騒いでる伊藤先輩達には、付き合えそうにない。

主役が居なくても、2次会はただの飲み会に変わるだけで問題も無さそうだし。


「仕方ないわね。気をつけて帰るのよ~」

楽しげに手を振ってくれる伊藤先輩に、

「は〜い」

と振り返って微笑んだ。



「瞳依ちゃん、マンションまで送ってくよ」

光輝君が駆け寄ってくる。


「えっ? 大丈夫ですよ」

「ダメダメ。快斗先輩にくれぐれもって言われてるし。部屋に入るまで見届けるよ」

三村さんは、どうやら根回ししてくれてたらしい。


「分かりました。お願いします」

「おう、任せといて」

「2次会に行かなくて大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫。あいつらと飲み会するのはいつもの事だし。それに、付き合ってたら朝まで連れ回されかねないしな」

振り返って、騒いでる伊藤先輩達を見て苦笑いした光輝君。


どうやら、酷い目にあった事があるみたいだ。

朝までとか、若いなぁ。

私、そんなの無理だよ。

途中で寝落ちする、絶対。


夜風に吹かれながら、光輝君と並んで歩く。

疲れた顔で歩くサラリーマンや、飲み会帰りの学生達とすれ違いながら、人の少ない方へと進んでいけば、さっきまでガヤガヤと煩かった喧騒が遠ざかった。

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