第34話

「それじゃあ、新しく入った瞳依ちゃんに」

「「「「「乾杯!」」」」」

光輝君の音頭に、みんな一斉にアルコールの入ったグラスを掲げた。


私の為に集まってくれたのは総勢20人。

1課と2課から時間の取れた営業マンと受付のメンバー全員。

入ったばかりの私の為に大勢が集まってくれた事が嬉しい。


かなりお洒落なイタリアンバーは、初めて訪れた場所で、テーブルに並んだ創作料理もとても美味しそうだ。

左に光輝君が座り、右には伊藤先輩が座ってる。

和気藹々としたこの盛り上がり方も嫌いじゃない。


「光輝君、ありがとうね」

彼が企画して誘ってくれた事に、感謝の気持ちで一杯だよ。


「これぐらいどうってことないし。瞳依ちゃんが楽しそうで良かったよ」

照れくさそうに後頭部をかきながら笑った光輝君は少年のようだ。

光輝君はソフトモヒカンに切られた黒髪をワックスでつんつんに立ち上げ、シャープな輪郭を強調したスポーツマンタイプのイケメン。

愛嬌のあるエクボが彼を少し幼く見せてる気がする。


「瞳依は何かと可愛がられるタイプよねぇ」

伊藤先輩が綺麗にマニュキュアを塗った指先で私の額をツンとつつく。


「爪痛いですよ、伊藤先輩」

地味に痛かったその攻撃に眉を寄せ、額を擦る。


「あら、ごめんね~」

軽い、軽すぎる謝罪だよ。


「謝罪に重みがありませんよ」

「そう? まぁ細かい事は気にせずに沢山食べなさいよ。じゃないと大きくなれないわよ」

「もちろん、いただきますけど。これ以上身長が伸びる気配はありませんけどね」

「アハハ、そうかもね」

ケラケラ笑うたびに伊藤先輩の縦巻きカールが揺れる。


戦闘準備バッチリにメークした伊藤先輩は見た目ギャルだけど、まぁそんな悪い人じゃない。

私の他に4人いる受付係の中で、私の面倒を一番よく見てくれてるのがこの人だ。


「瞳依ちゃんは女の子だし、小さくても可愛くていいよ。瞳依ちゃん見てると実家の妹思い出すよ」

慰めなのかよく分からない言葉で励ましてくれる光輝君。


「光輝さん、妹さん居るんですねぇ。何歳なんですか?」

と目をキラキラさせて聞いた伊藤先輩。


「妹は今中学1年生なんだよ」

妹さんを思い出し嬉しそうに言う光輝君。

でもさぁ、中1の妹を思い出される私って複雑なんだけど。

れっきとした20歳、成人してますからね、私。


「キャハハ、中1なんですねぇ。瞳依13歳だってぇ」

チッ、そこ突っ込まないでくださいよ。

伊藤先輩、同情を孕んだ目で見てくるのよしてください。

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