第33話

結翔Side


今しがた閉まった社長室のドアに、大袈裟に溜め息をつく。


「お前、知ってて言わなかったよね?」

ソファーに座ったまま足を組み、快斗に向かってゆるり視線を移動させた。


「ええ、もちろんです」

涼しい顔で悪びれる様子もない快斗。


「瞳依ちゃんの歓迎会だぞ? 俺が行かなくてどうするんだよ」

「どうもしませんよ。キングが行かない方が彼女はきっと楽しめますよ。心配はいりません」

「瞳依ちゃんを見つけてきたの俺だよ」

「ええ、良い人材を見つけてきましたね。彼女の就業態度も能力も申し分ないですよ」

快斗なりに、瞳依ちゃんを気に入ってる。

それは、それで良いけど。

歓迎会を黙ってるとか有り得ないからな。


「俺も行きたかった」

「はぁ···キングは市原さんをどうするつもりなんですか? 可愛がるのはいいですが、まさか遊び相手の1人にでも加えるつもりじゃないですよね」

射抜くように俺を見た快斗の瞳には警戒色が含まれてる。


「そんなことするわけ無いよね。瞳依ちゃんは···」

瞳依ちゃんは、なんだろう。

言葉の続きが出てこない。


可愛い瞳依ちゃんを大切にしたいとは思う。

コロコロと変わる表情や物怖じしない態度も、好印象だし。

彼女は、俺達の事を色眼鏡でまったく見ない。


それに...側にいて安心できると言うか、気を張らないでいいというか。

まぁ、ホッとできる存在なのは間違いないな。


「そんなに考え込まなくても、普通は気づけるものなんですがね」

呆れたように言う快斗に首を傾げる。


「どういう事?」

「こればかりは自分で気付くしかないです。せいぜい頑張ってください」

「なんだよ、それ」

「まぁ、一つ忠告出来るのは女遊びを程々にする事ですね。今のままでは市原さんは社長との距離を他人のままで保つでしょうね」

もう話は終わりだと言わんばかりに立ち上がった快斗は、社長室を出ていった。


「意味が分かんないし」

小さく言葉を吐き出して、苛ついた気持ちを抑える為に、スーツのポケットから取り出した煙草に火を付けた。


ゆらりゆらりと立ち上がっていく紫煙。

それを目で追いながらぼんやりと考える。


女の子はみんな可愛くて、柔らかくて気持ちいい。

気紛れに遊ぶもの楽しいし、溜まった欲だってどうせなら自家発電より気持ち良く吐き出したい。


止めろって言われても、欲に塗れた目をした女が嫌でも集まってくるじゃん。

それを上手く利用して何が悪いのか、分かんないね。

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