襲撃事件とキングの本質

第25話

「ブラックノートの管理って厄介よね」

受付カウンターに、頬杖をついたまま顔だけこちらに向けた伊藤いとう先輩。


「そう思うなら代わってくださいよ」

「嫌よ、ああ言うの相手にしなきゃなんないんでしょ?」

先程訪れた女性が警備員に連れられていく後ろ姿を、顎でイクッと指した伊藤先輩。


「まぁ、そうですね。嫉妬で可笑しくなる人が希に居ます」

「なら、いやよ。危ない目に遭いたくないし」

「私も嫌なんですよ」

「え〜瞳依は上手くあしらえてると思うわよ」

「それ、あんまり嬉しくないです」

女性の管理を上手くこなせてると言われても、全く持って嬉しくないのはなぜだろう。


「でもさぁ。キングは遊びだと割り切ってる女しか相手にしないって初めから言ってるのに、本気になって嫉妬とかみっともないわよね」

クスクスと笑う伊藤先輩のその姿は小悪魔に見えた。


まぁ、確かに伊藤先輩の言う通りなんだけどね。

斎賀さんは誰にも本気にならない。

彼のスタイルを知ってる人なら、誰でもそれを分かってる。

分かってるはずなのに、女心って複雑なんだよね、きっと。


「一夜でもいいから、抱かれたいとか言う人の気持ちが全く分かりません」

遊ばれても良いだなんて、馬鹿みたいじゃん。


斎賀さんの数時間を手に入れても、彼の心を手に入れられないのにね。

やっぱり私は自分の事をきちんと見てくれる相手がいい。


「私もキングは無いなぁ。あれは観賞用だよね」

赤い口紅のついた口元をゆるりと緩めた伊藤先輩。


彼女は斎賀さん目当てで入社した人じゃないらしい。

この会社の給料と福利厚生に惹かれたと本人談。


大勢の従業員を抱える斎賀コーポレーション。

その中には、あわよくば斎賀さんとお近付きになりたいって言う、猛者が数人いる。


入社の時に、斎賀さん目的の人は選別で篩い落とすんだけど、たまに紛れ込んじゃうらしい。

三村さんがその人達をいち早く見つけて、おかしな行動をしないように監視下に置いてるらしいけど。


生き残った猛者達は神経が図太い上に上手く立ち回るらしく、追い出すまでには至ってないそうだ。


私はまだその人達と接点はないけど、危険人物になり得るので近付かないようにと三村さんから名簿を手渡されてる。

君子危うきに近寄らずなので、もちろん二つ返事で了承した。

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