第26話
イジメとか嫌がらせとか受けたくないもんね。
社会に出てまでそんな事をする人の気持ちは分かんないけど、嫉妬に狂った女の敵は女だから。
斎賀さんとは雇い主と従業員として、専属の受付係に徹してる。
だから、無駄に嫉妬心なんか向けられる覚えは無いんだけどさ。
注意しておくに越したことは無いだろう。
「瞳依ちゃ〜ん!」
その呼び方は止めろって言ってるじゃん。
声のする方に目を向けると、出先から帰ってきたであろう斎賀さんがひらひらとこちらに向かって手を振っていた。
彼の後ろには村さんがいて、2人でこちらに向かって歩いてくる。
私が振り返す事がないって分かってるのに、未だ手を振り続ける斎賀さんに大袈裟な溜め息をつく。
「キング相手にそんな嫌そうな顔するのは瞳依だけよね」
くすくす笑う伊藤先輩。
「煩いですよ」
小さい声でそう返す。
「「おかえりなさいませ」」
カウンターまでやってきた2人に伊藤先輩と頭を下げる。
「うん、ただいま」
嬉しそうに微笑む斎賀さんに、ロビーにいた女の人達が頬を赤らめてキャーキャー騒ぐ。
観賞用としては、今の笑顔は満点なんだろうな。
私からしてみたら作り笑いのお面に見えるんだけど。
「市原さん、少し打ち合わせがあるので社長室まで一緒に来てください」
「分かりました。伊藤先輩少し席を外しますね」
三村さんの声かけに、ブラックノートを持って立ち上がる。
今日の予約状況の確認と報告だろうと予測できた。
「オッケ〜行ってらっしゃい」
ひらひら手を振る伊藤先輩はお気楽なもんだよね。
私は今からこの鉄仮面と話さなきゃいけないっていうのに。
普段あまり笑わない三村さんのあだ名を鉄仮面にしたのは、ここに勤めだして一週間が過ぎた辺りだったと思う。
もちろん、本人に向かって言う勇気なんか全くないけど、心の中でいつも呟いてる。
樹と話す時にまたに三村さんを鉄仮面、斎賀さんを女好きと呼んでるが、それはそれでありだと思う。
「瞳依ちゃん、おやつ買ってきたから社長室で食べようね」
と笑う斎賀さんの手には人気のスイーツ店の紙袋。
「はぁ」
気のない返事を返し、私は三村さんの隣へと向かった。
斎賀さんの隣を歩くのは、色んな意味で危険な匂いがするからだ。
「あ〜! 瞳依ちゃん、また快斗の側に行っちゃうの」
唇を尖らせて拗ねる斎賀さん。
そんな仕草も色っぽく見えるのだから、不思議で仕方ない。
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