第22話

「そうですか、受付なんですね」

声にホッとした気持ちが出てしまったのは仕方ない。


「受付は市原さんの他に数人居ますので、仕事はきちんと教えて貰えます。その辺りはご心配なく」

「あ、はい」

「では、書類にサインをお願いします」

三村さんにそう言われ、仕方なく取り出した書類に書き込んでいく。

名前、年齢、現住所、この人達にはもう色々と知られてそうだから誤魔化したりせずに書き込んだ。


これって諦めの境地って言うの?

三村さんの醸し出す空気は、書類に書き込むまで返さないと言ってる感じがするし。

樹に知られたらきっと呆れられるだろうなぁ。

でも、これって不可抗力だよね。

私に断る権利が無いんだもん。



「これでいいですか?」

書き込んだ書類を三村さんに差し出す。


「拝見します」

受け取った彼はきちんと書類に目を通していく。

その隣で、彼の手元を覗き込んだ斎賀さんは、急に声を上げた。


「えぇ! 瞳依ちゃん、もう20歳なの?」と。

身長の低さと童顔のせいで、若く見られるのは慣れてるからそんな事じゃ落ち込まないけどね。


「そうですけど」

抑揚のない声で返事する。


「高校生って言っても通じそうだよね」

「それが何か?」

私の声がどんどん低くなるのは気のせいじゃない。


「瞳依ちゃん、高校生の制服来ても違和感なさそう」

「煩いですよ」

「あれ? 怒ってる?」

「···チッ」

目の前のチャラ男に苛立ちが隠せない。

社長相手にこの態度はどうかと思うけど、首になってもいいし。

そっちの方が、私としては逆に大助かりだもんね。


「からかってばっかりしてたら、嫌われますよ」

書類から顔を上げた三村さんが、斎賀さんに白い目を向ける。


「あ、それは困るな。瞳依ちゃんとは、長い付き合いになるんだし」

長い付き合いなんてしたくないよ、と思いつつもニヘらと笑う斎賀さんに三村さんと同じ様に白けた目を向け続けた。

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