第21話
「そうそう、だから、さっさと契約書にサインしようね」
斎賀さんの軽い口調がイラッとする。
この人が余計なことを言うから、こんな事になったのに。
「貴方に拒否権はありません。早く封筒を開けてください」
三村さんの強い口調と強い視線に、肩を落としながら封筒を開いた。
だって、この人怖いんだよ。
視線だけで人を殺せるんじゃないかってほど、視線が半端なく怖い。
カサカサと紙の擦れる音だけが社長室に開く。
取り出して見てみると、しっかりとした就業規則ときちんとした雇用条件の書かれた書類だった。
会社の事業形態から資産、従業員数に至るまで事細かく細部に渡るまで書き込まれたそれは、一流企業の物だった。
雇用条件も週休2日で、ボーナスだって年二回支給だし、福利厚生もしっかりしていて悔しいけど問題ない。
それに、初任給もかなり高額で、この間まで勤めていた鉄工所なんて比べ物にならないぐらいだ。
だんだんと眉が寄ってしまったのは、断る理由が見つからないせいだ。
まぁ、断る理由が見つかっても断れないんだろうけど。
「給料足らない? 会社に通うためのスーツやなんかは現物支給してもいいし、なんなら夕飯も毎日奢るよ」
険しい顔になった私に、何を勘違いしたのか違う方向に話を持っていきだした斎賀さん。
「あ、いえ。お給料は十分です」
そう、本当に十分過ぎるほどだ。
でも、気にかかる事が一つだけある。
今見た書類のどれにも、私の働く部署が書かれてない。
三村さんが直属の上司なら秘書課になるのかも知れないと思いつつも、秘書検定なんて持ってない私に秘書が務まるはずもない。
「だったら問題ないね。早くサインしちゃおっか」
テーブルに乗ってたペンケースから高級なペンを取り出して、私に向かって差し出す斎賀さん。
その笑顔が胡散臭すぎる。
「あの···私、こちらではどんなお仕事を?」
せめてそこを聞いてからサインしたい。
どうせ断れない事には変わりないだろうけど、そこだけは聞いておきたかった。
「市原さんには受付をお願いします。先程通ってきたロビーのカウンターでお客様の相手をしもらいます」
三村さんの説明に少しホッとする。
受付なら、やれそうな気がしたから。
前の会社でも来客の相手とかしてたしね。
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