第18話
「皆、新しい受付の子だよ。仲良くしてやってね」
ロビーに入った途端に、大きな声でそう言ってのけた斎賀さんをギョッと見上げる。
な、な、何してくれてんの、この人。
ロビーにいた人達は口々に、よろしくだか、仲良くしようねだか、声をかけてくれる。
それを愛想笑いで返すしかない状況に、逃げ道を断たれたと溜め息を漏らした。
「どうして叫ぶんですか!」
「へっ? みんな瞳依ちゃんに興味津々だったから一緒に働く仲間だよって早く教えてあげようと思ってね」
悪い事なんてしてないよって顔で涼しげに言う斎賀さんを周囲に知られない様にこっそり睨む。
大勢の社員が居るロビーで大っぴらにそこの社長を睨みつけられる心臓は持ち合わせてないから。
何気に私は小心者なのよ。
広いロビーには大勢の社員が行き来してるし、左端のラウンジフロアーには、商談中と思われる来訪者などが何組もいた。
そんな場所で敵に回るなんて出来るわけないよぉ。
「うちの連中は気の良い奴が多いから、何も心配いらないからね」
そんな心配してないよ。
と言うか、ここで働くなんて一言も言ってないんですけどね。
「私、採用されたく無いです」
小声で言ってみる。
「あ〜それは無理だよ」
「どうしてですか?」
「だって、俺が気に入っちゃったんだもん」
「···」
だもんて、何よ。
なまじイケメンだから、それすら違和感ないんだけど。
綺麗に笑ってるその顔に、握り拳を打ち込みたいと言う衝動が湧き出てくる。
きつく握り締めたそれを振り上げない様に必死に我慢した。
「エレベーターに乗るよ」
辿り着いてしまった2機のエレベーター前、気を回した社員の人がわざわざ扉を開いてくれる。
それ、ありがた迷惑ですから。
「社長、どうぞ」
「お、ありがと。君、営業2課の
「あ、ありがとうございます」
嬉しそうに頭を下げた人の肩をポンと叩き、斎賀さんは私の腕を引いたままエレベーターに乗り込んだ。
女遊びしてても、会社ではキチンとしてるんだ。
しかも、社員の部署や名前や成績まで把握してるなんて、斎賀さんて仕事は出来る人なのかもな。
人って見かけによらないなぁ、なんて失礼なことを思った。
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