第17話

「ほら、降りといで。狙われた小動物みたいにそこで固まってても仕方ないしね」

ドアからこちらを覗き込む西川さんは苦笑いだ。


それは分かってるんですってば。

私だって動けるなら動いてるよ。


「切実に帰りたい」

吐き出すようにそう漏らした言葉は、

「帰れるわけないよねぇ」

昨夜聞いた覚えのある軽い口調でぶった斬られた。


「亮矢、後は俺が連れて行くよ」

西川さんの肩にポンと手を置いた斎賀さんが、こちらを見て楽しそうに笑った。

その瞬間に、周囲がざわめく。

社長の突然の登場に、私を含めその場にいた全員が驚いてる。


「キングがわざわざお出迎えですか?」

西川さんは楽しそうに言う。

今の状況を楽しんでる彼に、非難の目を向けたのに軽く受け流された。


「そう。瞳依ちゃんは、きっと大人しく車から降りてこないと思ったからね」

読まれてる、私の行動。


さぁ、行こうか、私に向かって手を伸ばす斎賀さん。

あちこちから刺さる視線に、その手を撥ね退ける勇気はなかった。

腕を掴まれ、少し強引に車外へと連れ出されれば、好奇な視線が一気に私に集中した。


あー最悪だ。

間違いなく悪目立ちしてる。


「瞳依ちゃん、社長室に案内するよ」

周囲の視線も空気も気にしないまま、私の腕を引いてビルの自動ドアへと向かった斎賀さん。

一階の壁は綺麗に磨かれた大きな窓ガラスで囲われていて、ビルの中からも様々な視線が飛んてくる。


「瞳依ちゃん、ファイト!」

何の励ましにもならない西川さんの言葉が背中越しに届く。

何がファイトだ! どう考えても頑張れる気がしないよ。




「瞳依ちゃん、スーツで来てくれたんだね」

かなり高い位置から私を見下ろしてへらりと笑う斎賀さん。

185センチは超えてるだろう彼を、153センチの私が見上げるのは拷問に近い。

なので、彼を見ないまま返事を返す。


「たまたまですよ。お昼から面接あったんです」

素っ気なく言えば、

「へぇ、そうなんだ。でも、うち以外の面接なんてもう受けなくてもよくなったよね。良かったね」

クスクス笑われた。

ここ以外の面接を受けたいに決まってるじゃん。


「···」

多分何を言っても無駄な気がして、無言を貫いた。

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