第16話
「斎賀コーポレーション。僕達の仕事場だよ」
「···私、本当に雇われなきゃならないんだ」
諦め半分の言葉が口に出た。
「ククク、本当に嫌そうだね。ほとんどの女の子がうちに就職したくて躍起になってるって言うのにさ」
バックミラーに映った西川さんの顔が面白いものでも見たように華やいだ。
「嫌に決まってます。昨日数分会っただけの人の会社に勤めるなんて。しかも、その相手がキングだとか最悪」
そう言って溜め息を漏らす。
「まぁまぁ、そう言わずに。うちの会社、社員待遇かなりいいからさ」
「それでもですよ。胡散臭い事に巻き込まれたくない。絶対面倒な事になるに決まってるよ」
「あ〜ま、そこは否定できないけど。それなりに楽しみなよ。無職よりはきっといいから」
他人事みたいに言わないでよね。
まぁ、西川さんにとって他人事には違いないんだけどさ。
大体、どんな仕事させられるか分かんない上に、どうしてあんな戯言が本採用になったのか不思議なんだよ。
しかも、相手はキングだよ?
女遊びが好きな上司とか嫌に決まってる。
「瞳依ちゃん、そんな嫌そうな顔しないでよ。せっかくの美少女が台無しだし」
「お世辞言っても何も出ませんよ」
ピシャリとぶった切る。
そりゃ、そこそこ顔は整ってる方だと思うけど、美少女は言い過ぎだ。
「いや~瞳依ちゃん良いね。キングが気に入るのも無理ないわ。ま、困った事あったら相談に乗るから、とにかく頑張ってね」
「今、一番困ってるんですよ」
拗ねたようにそう言えば、西川さんは声を出して笑った。
このまま目的地に着かなきゃ良いのに! と思ってた私の思いは届かず、黒塗りの車は大きくて立派なビルの前に到着する。
「さぁ、どうぞ」
運転席から降りた西川さんが後部座席のドアを開けてくれる。
出たくなくて戸惑ってる間に、周囲の視線が車に集まってきた。
スーツを着たサラリーマン達が興味津々に見てくる。
そりゃ会社の入り口に社長車が停まってたら見てくるよね。
それは分かってるけど、一歩を踏み出す勇気が沸かない。
まさか、こんな立派は会社だって思わなかったし。
私、完全に場違いだよ。
面接に行くつもりで着てたスーツを脱いでなかった事が唯一の救いだ。
投げやりになって、普段着で来なかった自分を褒めてやりたい。
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