第14話

「あの···私、そのお話はお断りしたと思うんですが」

勇気を振り絞って断りの意思を示す。

ここで押し負けちゃとんでもない事になる。


『そうですか···ですが、決定権は社長にあります。社長が採用と言ったら採用です。貴方もこの街に住んでいるならご存知ですよね。誰がこの街を支配しているのかを』

う、うぅ、脅してきたよ。

知ってるよ、知ってるけど、斎賀さんの会社なんかに入りたくないんだよ。


だいたい、どんな暴君なんだよ。

就職したくないって言ってる人間を無理やり取り込もうとするの止めて〜。


「···」

『この街で平和に暮らしたいとは思いませんか?』

この言葉の中には、凄く色んなものが含まれているんだと理解できた。


斎賀さんの意思に逆らって、この街で暮らせると思うなとでも言いたいんだろうな。

ここを出て、引っ越すって選択もあるけど、それは今日明日で出来るような事でもないし。


『取り敢えず、そちらに迎えの車をやりましたので、当社までいらしてください』

やっぱり家まで知られるんだ。

肩を落とし項垂れた。逃げ道塞がれてるよ。


「···はい」

『そんな力のない声を出さなくてもいいですよ。貴方にとって不利益になることをするつもりはありませんからね』

「は、はぁ···」

気のない返事が出たのは、本当に仕方ないと思う。

だって、無理矢理就職させられる事自体が不利益じゃ無いのかなぁ。

怖くて、そこはツッコめないけどね。


『西川と言う男が迎えに伺いますので、彼の指示に従いおいでください。では、のちほど』

「分かりました」

したくない返事をして、通話を終えた瞬間に、ドッと疲れが押し寄せた。


樹、どうやら、私は引きこもりになる事はできないみたいだよ。


キングの権力怖い。

そして、三村さんは更に怖い。

有無を言わせないあの口調と、こちらに隙を与えない対応の仕方、絶対普通の人じゃないよ、あの人。


酔った勢いで馬鹿なことを叫んだ自分が恨めしい。

タイムマシーンがあったなら、是非とも昨日の夜に戻りたい。

切実にそんなことを考えていた私の耳に聞こえたインターフォンの音。


「お迎え早いよー!」

私の叫びが室内に寂しく響いた。

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