第13話

マジで、無理。

本当に勘弁してほしいんですけど。


自宅に乗り込まれる事は良しとしない。

キングなんかに家の周りをうろつかれでもしたら、たちまちとんでも無い事に巻き込まれる。

よし、ここは電話に出よう。


この時の私には、この選択しか無かったんだ。





手に持ったスマホが直ぐに鳴り出す。


「うわっ、かかってきた」

焦って落としそうになりつつも、ディスプレイをタップした。


「は、はい」

『瞳依ちゃん、やっと出てくれた』

電話から聞こえてきた声にドキリとする。

その声は昨夜聞いた覚えのある声だ。


「斎賀さんですか?」

恐る恐るそう聞けば、

「そうだよ。斎賀さんだなんて他人行儀だな。俺の事は結翔って呼んでよ。あ、結でもいいし」

軽い口調が返ってきた。

私と貴方は他人だよ、心の中で突っ込んだ。


「何か。御用ですか?」

『えぇ〜俺の話はスルー?』

クスクス笑う声が耳につく。

街を統べるキングを、そう易々と呼び捨てられるわけ無いじゃん。


「···」

『ククク、まぁいいや。昨日約束した仕事の話をしようか』

「あの、その話はお断りしたかと」

『ダ〜メ、もう採用決定したし』

私の意思はどこへ行った。

なに、勝手に採用してくれちゃってるんだ。


「いや、本当、就職の話はない方向でお願いします」

『無理無理、もう快斗にも話したし。あ、快斗って言うのは俺の秘書兼参謀をやってる男なんだけどね』

「勝手に話を進めないでくださいよ。迷惑です」

抑揚のない声で返す。


『くくっ、相変わらずの塩対応。ま、そこがいいんだけど』

何が楽しいのか、このチャラ男。

だんだんと苛ついてきた。

こっちはもう関わりたくないって言うのに。


「本当、今回の話はなかった事でお願いします」

『無理無理。あ、快斗に代わるね』

「か、勝手に知らない人に代わらないでくださいよ!」

その叫びも虚しく、次にスマホから聞こえてきたのは知らない声。


『初めまして、三村快斗みむらかいとです。貴方は市原瞳依さんで間違いないですね』

「そ、そうですけど」

『採用が決定しましたので、詳しい仕事内容や就業規則などについてお話いたしましょう。直ぐに我が社においでいただきたい』

隙のない喋り方の三村さんに圧倒される。

私は斎賀さんの職場になんて就職したくないんですってば。

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