悪魔に魅入られた日
第3話
こじんまりとした事務所で、パソコンを叩く。
今日も残業無しで帰れそうだと思いながら、一人だけしかいない静かな事務所を見渡した。
従業員が30人ほどの小さな鉄工所が私の職場高3の時の担任に紹介してもらい勤め始め2年が過ぎた。
年齢層の高い職場なので、年の若い私はわりと可愛がって貰えてると思う。
小さくても居心地のいいここが結構好きだ。
「おかえりなさい、社長」
軋んだ音を立てて開いたドアに視線を向けて声をかける。
「ああ、
疲労困憊した顔の社長が力のない声で返答してくれた。
どうやら、今日も駄目だったみたいね。
不況のせいで親会社が半年前に傾き、うちの会社はその煽りを受け資金繰りに困ってる。
今まではなんとか、預託金で会社を回していたもののとうとうそれも底をつき、社長は毎日必死に資金援助を求め銀行や知り合いの会社を回っていた。
次の支払日までに資金が準備出来なきゃ、うちの会社は倒産に追い込まれるだろう。
政府の政策ミスのツケが末端の小さな会社に回ってきてるんだと、社長は嘆く。
「瞳依ちゃん、うちは、もう駄目かもしれない」
青い顔で社長は椅子に座ると、苦しげに溜め息を吐き出す。
「···社長」
ここが潰れたら、私もたちまち生活に困ってしまう。
高校を卒業してすぐに親元を離れて一人暮らししてる身としては、会社の存続を切実に願う。
「このままではうちは倒産するしかない、瞳依ちゃんや従業員に満足のいく退職金さえ払うことも出来そうにないよ」
そう言って、両手で頭を抱え項垂れた社長に、私は返す言葉を持たない。
それからしばらくして、鉄工所は倒産を余儀なくされた。
私は無職になり、現在3日が経過。
もちろん、仕事は探してるけど、高卒で特殊な資格もない私の職探しは難航してる。
「あーもう、蓄えが無くなる前に就職したいよぉ」
半泣き状態で居酒屋のカウンターに突っ伏した。
「よしよし、そう嘆くな。今日は奢ってあげるからね」
隣の席に座って私の頭を撫でるのは、高校の同級生。
彼女は
現在、大学二年生で、 私の大親友である。
「いっちゃーん、心の友よぉ」
がばりと起き上がり隣の彼女に抱き着いた。
「はいはい、本当瞳依は可愛いね」
姉御肌の樹は私の頭をはポンポンと叩いて慰めてくれる。
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