第2話

「申し訳ありません。どなたかがキャンセルをしない限りその日の時間は取れません」

「そこをお願い」

「申し訳ありません」

もう一度同じように言う。


「なんとかしなさいよ。こっちはこんなに頼んでるのよ。貴方、受付なんでしょう! 仕事しなさいよ」

理不尽に逆ギレし始めた女性に、またか・・・と思いつつも隣の伊藤先輩に助け舟を求めるも、伊藤先輩は肩をすくめ苦笑いするだけで役に立ちそうにない。


毎回毎回、こんなの面倒すぎる。

綺麗なお姉さん達は、いつも自分の思い通りにいかないと直ぐにキレるんだよね。

まぁ、毎回相手してれば、あしらい方も慣れてくるんだけどさ。


「申し訳ありませんが、こちらで声を荒らげられるのは困ります」

感情のこもってない声でそう言って女性を見据える。


「だったら、予約入れてよ。割り込みさせてくれるなら貴方にお金を払うわ」

彼女のヒステリックな声に耳がキンとなった。

美人でスタイルのいい女の人って、どうしてこうも高飛車な上にお金をちらつかせるんだろうか。


「お金の問題では無いんですよ。こちらの方針に異議があるようでしたら、うちの統括部に申し入れていただけますか?」

パタンとブラックノートを閉じて、両手でそれを胸元に抱えた。

目の前の女性が次にすることが予想できるから。


「そのノート貸しなさいよ」

ほら来た。

カウンターを乗り越え手を伸ばす女性。

予測できたその行動に椅子を後ろに引いて、体をカウンターから遠ざけた。

空を切った彼女の手。


「逃げるなんてずるいわ。そのノートを寄越しなさいよ」

ヒステリックに叫ばないで欲しいな。

憎々しげに睨まれたまま小さな溜め息を漏らした。


そんな私を助けるでもなく伊藤先輩は他人事のように隣で笑ってる事に、イラッとしたのは言うまでもない。

こんな騒ぎをもう何度経験したんだろうか。

うんざりしながら、こんな目に遭う原因を作ったあの夜を思い出した。

もし、タイムマシーンがあったなら、私はあの夜の自分の口を塞いで、あの言葉を言わせないようにしたと思う。


軽く呟いた言葉が、こんなことに巻き込まれる原因になったのだから。

私はあの日から絶対に神様に見放されてる。


駆け付けた警備員に取り押さえられてる女性を見つめながら、もう一度重い溜め息をくつのだった。

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