馬の被り物の男?!
ベイカー公の息子たちなのか、はたまた違う貴族の息子なのか、オレにはさっぱり分からなかったが、女たちはそれぞれ好みの男の周りに集まり、オレからすれば無意味なおしゃべりに夢中なようだった。オレはその中に混じる気がしなかった。確かに顔や衣服は良い男たちだが、オレにとっちゃみんな一緒に見えた。
はあ。何が公爵の嫁だ。馬鹿な夢を見たもんだぜ。
オレは虚しくなったが、せっかく来たのだ。美味いもんぐらい食わないと損だと思い、まだ誰も見向きもしない料理に意識を向けた。どうやら立ち食いのようではある。
オレは一通り食べてやろうと大きな皿にそそくさと料理を乗せて、そうっと庭の方へ出た。そして垣根の下にしゃがみ込み、頬張った。
う、美味ぇ~!!
昨日レオンが食べてたケーキより数倍美味いだろう料理にオレは夢中になった。だから気付くのが遅れた。オレの前に人影ができるのに。
「何してるんだい?」
えらくくぐもった男の声がして、オレはびくっと体をこわばらせた。
これはまずい。どうする?
恐る恐る声の主を見上げて、オレは食べていたものを噴き出した。
なんだ、こいつは! 身なりはいい。給仕の男なんかとはかけ離れた仕立ての良い服だ。けれどそいつは馬の頭の被り物を被っていた!
なんかやばいやつ来ちまったぞ、おい。
ホールの方を盗み見るが誰も気付いている様子はない。どうしたものやら。
「ねえ、聞こえてる?」
得体のしれない男は隣に来てオレと同じようにしゃがんだ。
仮面を被るならまだしも、馬の被り物だぞ? かなりの変人に違いない。垣根の影。誰も気付かない。何されてもおかしくない!
「~!」
悲鳴をあげようとして、そいつに手で口を塞がれた。
「待って。声をあげるのはなし。君もこんなところで何してんだって話になるし、僕も居場所を知られるのは困るんだ」
こいつ、かくれんぼかなにかしてんのか?
「君、名前は? 僕は、えーっと、カイン。君はなんで一人こんなところにいるの?」
カインはゆっくりとオレの口から手を離した。
「オレはエレナ。一応、パーティーに来たんだが、場違いな気がしてここにいる。それにお腹減ってて」
混乱したままオレはそう答えた。
「エレナ? ああ、じゃあ、君の御父上は冒険家か何かだっけ? 本当に来たんだ?」
被り物のせいでくぐもってはいるが、笑いをこらえているのはまる分かりだ。オレはむっとした。
「ああ、そうだよ。よく知ってんな。別にオレだって来たくて来たんじゃねぇよ」
「ふーん? そうなんだ? エレナは彼らに興味はないの?」
カインはホールの男たちの方を指さして言った。
「まあ、下心がなかったわけじゃない。オレの家族があまりにもうざいから、どこぞの貴族の嫁になって見返してやろうとは思ってた」
「すごい理由だね」
カインは笑っているようだった。
「じゃあ、ここにいちゃ意味ないんじゃない?」
「それを言うな。来たはいいけど、オレはお呼びでないさ」
「ふうん? 僕はエレナのその海の色のような瞳、綺麗だと思うけどね」
甘い言葉にゃご用心てやつだ。
「オレに世辞言っても無駄だぜ。オレはこんなだけどたやすくやらせるような女じゃねぇんだからな! 変な事したら大声出してやる!」
カインはオレの言葉に腹を押さえた。腹が痛いのか? と思ったら、大笑いをしているようだ。なんかむかつくけど憎めないやつだな。
「エレナ、君面白いね」
「馬頭のあんたに言われたかないね」
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