弟の裏切りと家族の企み

 ガンガンガンガン!


 オレの頭の中で突貫工事が行われている。痛さと気持ち悪さで目が覚めた。気分は最悪の一言に尽きる。


 なんだ? 何が起こった?


 見慣れない家具が増えているが、自分の部屋だろうことは分かる。とにかくまず水を飲もうと体を動かそうとして、


「なんだこりゃー!」


 オレは叫んだ。ベッドの上に縛られていた。

 自分の声にますます頭痛が酷くなる。


 なんでこんなことになってんだ?


 よく回らない頭で記憶をたどる。思い出すだけで腹が立ってきた。そうだった。そうだった! 


「レオン! てめぇ、絶対許さねーからな!」


 雄叫びをあげると、当のレオンがあくびをしながら部屋に入ってきた。


「ねーちゃん、うるさいよ。今何時だと思ってんの?」

「知らんわ! それよりこれをどうにかしろ!」

「だってそれ外したらねーちゃん逃げるでしょ?」

「当たり前だ!」


 頭だけはかろうじて動かせたので、レオンの方を向いて、思いっきり睨んだ。


「社交界デビューがなんだ! そんなに金が欲しけりゃ自分で女装でもなんでもしていけ!」


 レオンは頬を掻いた。


「うん。それも考えはしたんだけど、かーさんやとーさんはねーちゃんの方がいいだろうって。一応女だし」

「好きで女なわけじゃねー! とにかくこれをどうにかしろ! 水も飲めないしトイレにも行けねー!」


 怒りが頂点に達して叫びまくっていると、 


「うるさいわねぇ。何なの夜中に」

「エレナちゃん。もう起きたのか?」


 と母さんとオヤジが部屋にやってきた。


「オーヤージー!! 金塊掘り当てたなら十分金はあるだろ!」


 オレは地の底から呪うような声でオヤジに言った。


「いや、それがねエレナちゃん。ほとんど使ってしまってね」

「それはこの変な家具やらお前らの来ている変な服にか!? ざけんじゃねー!!」


 怒りと先ほどからの頭痛で頭が割れそうだ。


「ねーちゃんが今日、パーティーに行くってならこれ外すよ?」

「ふざっけんな!」


 やばい。このままでは血管がブチ切れる。


「あらあら、それじゃあ、トイレに行けないわね。ちょっと誰か。尿瓶持ってきて!」


 母さんの言葉に昨日のメイド服女の一人が本当に尿瓶を手に持ってきた。


「はああ?!」


 なんて屈辱! 


「ふはははははははは」


 人間とことん怒ると笑いが出てくるらしい。


「あ~あ。ねーちゃん狂っちゃった」

「誰のせいだ!」


 こうなったら。こうなったら! 


「行ってやろうじゃねーか! そのパーティーとやらに!」

「「「おおお!」」」


 そして、大金持ちと結婚してこいつらをしもべにしてやる!



 ベッドに拘束からは解放されたものの、オレの心は落ち着かなかった。パーティーなんて初めてだ。読み書きすらほとんどできない、男言葉しか話せない、テーブルマナーも分からない、教養のないオレがそんなところで金持ちのボンボンの心を掴めるのだろうか。


 部屋にかけられている明日着る予定のドレスを横目で見る。着せ替え人形になった甲斐もあってか、オレの亜麻色の髪と紺碧の瞳と相性のいい、水色と白のドレスだ。まあ、派手過ぎず、地味過ぎず、悪くないとは思う。

 レオンも言っていたように、オレはとびきり美人とまではいかなくてもそこそこの容姿らしい。顔もだが、出るとこ出てて引っ込むとこ引っ込んでるスタイルのおかげで、男にはちやほやされてきた。と言っても貴族でない庶民の男たちからだけど。


 金持ちの坊ちゃまたちはどんな女が好みなのかな。あまりにも自分とかけ離れた世界で考えたこともなかった。しかも結婚相手に選ばれなきゃいけねぇとなるとますます実感がないし自信もなくなる。


 結婚。結婚ねぇ。


 オレは恋すらまだなのに結婚か、と思うと恋愛の一つぐらいしたかったなと今更後悔する。とかなんとか考えても誰もオレのことを選ばない可能性が高いのだから気が早いってもんだ。早く寝てしまおう。


 オレは考えることを放棄した。

 



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