社交界デビュー 〜ひょんなことから金持ちになったオレの運命〜

天音 花香

転がり落ちてきた金塊と

 帰宅して、家の中に何やら高そうなものがごちゃごちゃと運び込まれてくるのをオレは唖然として見た。


「あ、ねーちゃんお帰り」


 弟のレオンが高そうなケーキを口にしながらオレに言った。


「何事だよ、これは!」

「とーさん、金塊見つけたらしいよ」

「はあ?!」


 自称トレジャーハンターのオヤジはふらりと家を出てからしばらく帰ってこないことが毎度のことだったが。今どき本当に金塊なんて埋まってたのかよ!? そっちの方に驚いた。


「あ、それから、ねーちゃん明日社交界デビューだって」

「はあ?!」


 先ほどよりも大きく険しい声が出てしまった。


 なんだよ社交界デビューって。うちのあーぱー両親はとうとう頭イカれちまったのか。


「意味わかんねーし」

「いいとこのボンボンとこに嫁がせるって」 


 金塊見つけて急に金持ちになったのかしらんが、考えるところはさらに金かよ。だいたいうちのオヤジは収入が不安定だし、母さんがベビーシッターしてる金でなんとかやってるビンボー家族だったじゃないか。オレは17だけど、良家のお嬢様方が行くような学校には行けず、母さんの友人の雑貨屋で働きながら独学で勉強してる。15の弟だって同じようなもんだ。


 そんなオレたちが今更金を手に入れたからって社交界デビュー? 何言っちゃってんの? まず、パーティーに出られるわけないし、出たところで笑い者になるのがオチだぜ。


 レオンが食べているケーキの甘ったるいにおいが鼻につく。


「バッカばかしい」 


 オレが吐き捨てるように言って巾着を投げたときだった。


「エレナ、帰ったの? ちょうど良かったわ!」


 いつもは仕事に出てるはずの母さんの芝居がかったような声に嫌な予感がした。


「エレナは明日、ベイカー家で開かれるパーティーで」


 母さんがそこまで言ったとき、


「行かない」 


 とオレは言葉を遮った。


「まあ、何を言ってるの? この子は。さ!」


 母さんがパチンと指を鳴らすと、四人のメイドのような格好の女たちがどこからともなく出てきやがった。


 いつの間に雇ったんだよ? しかも、レオンの前で服脱がしてんじゃねーよ! レオン、てめー何見てやがんだ!


「てめーらやめろ! 離せ!」


 そう言えばレオンのやつも母さんもいつもと違った服なのに今更気がついた。


 趣味悪いんだよ! いかにも無理してます、みたいな高そうな服!


「エレナ。それから、その男言葉、みっともないからやめなさい。あなたにはどこかの公爵、ううん、公爵が無理なら侯爵でも、伯爵でもいいわ。嫁いで私たちの暮らしを安泰にしてもらわないと!」


 母さんが悪趣味な虹色の扇でオレの額をコツンと叩く。オレの血は沸騰した。


「何ふざけたこと言ってやがる! オレは今までの生活で十分だ! 絶対行かねーからな!」


 両腕をそれぞれ別のメイド服女たちに捕縛され、あれやこれや着せ替え人形にされながらもオレは叫んだ。


「まあまあ、ねーちゃん。落ち着いて。これでも飲んで」


 レオンが水を持ってきて、オレの口元にあてる。オレはレオンの手を借りながらそれを一気に飲んだ。


「レオン、気がきくじゃねー、か……。あ、れ……?」


 瞼が急に重くなり、オレはしまったと心で舌打ちする。


「試作の眠り薬。効いたみたいだね~」


 レオンがくすりと笑った。


「う……らぎり、も、の!」

「だって僕もうこんな生活やだもん。大丈夫、ねーちゃん外見はいいから、しゃべらなければなんとかなるよ」


 レオンの言葉が遠のいていく。


 ふざけんなよ。パーティーなんて絶対出ねぇからなあぁ……。

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