暴仲

第91話

倭が私に背中を見せなくなった。

もし、火傷が良くなっているのなら私に見せることが出来るはず。たけど見せないってことは、私が見た時よりも酷くなったのかもしれない。



私は倭が幼稚園の頃から知っている。

小さい頃は、沢山お泊まり会もした。

昔の倭は、私のことを「そのちゃん」って呼んでた。


私も、昔は「やまとくん」だった。

気づけば「倭」になってた。



中学時代からの知り合いの穂高と比べ、倭のことは「やまとくん」の頃から知っているから、いやでも、思ってしまうのかもしれない。



倭の顔つき、が、変わってしまったと。

眉間にシワがあるのが、当たり前になった。



「1年のくせに…」っていう言葉が倭の耳に入れば、倭は同じ派閥の人間なら、ボコボコにしていた。

文字通り、ボコボコにする。

歯が折れ、骨が折れ、倭は無傷なのに相手は血まみれになっていることが、当たり前になり。




「亜貴さんから、倭に急に変わっただろ?元々、亜貴さんだからついていくっていう奴が多くてさ。だから倭に未だ文句言ってんだろ。んでも、倭に逆らえないのは事実だから。そのうち従うよ。結局、勝ったやつが正義だから」



と、教室の中で、町田は言っていた。



町田は「お前、倭の彼女になったんだろ?」と、椅子に座っていた私に呟く。

もう、〝安藤派〟は全員が知っている。

倭が言ったから。

「奏乃には手ぇ出すなよ」って。



倭の言うことは、その派閥では絶対。

そして掟破りがあるぎり、他の派閥からは手を出されない。



つまり、清光の中で私は安全の場所にいるということ。




「倭がやばいとこまで行った時、止められるのは原田だけだと思う」


「…そんなことない」



だって私は、ここまで来たのに、今まで止められなかった。


もっともっと、倭を止められるタイミングがあったはずなのに。



「あいつ、晃貴と喧嘩すんのかなぁ…」



そう言っていた町田が、次の日、血まみれで倒れていた。顔を見ると、歯は折れていなかったものの、鼻と頭から血が出ていた。



町田を殴っていたのは、同じ派閥の2年生だった。



2年生が言うには、町田が昨日、私と喋ったから、暴行したという事で。



町田とは、ただ話していただけだった。



だけど、倭の命令する〝奏乃には手ぇ出すなよ〟を、破ってしまったらしい。



本当に、話をしただけなのに……。

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