第92話

町田と倭は友達のはずだった。

2人で仲良く会話をしてるのも、見た。


それなのに……。


友達までも………。






「奏乃」



教室にいたくなく、廊下から窓の外を見ていると、倭が私の名前を呼んだ。

1ヶ月、ううん、1週間前よりも目が鋭くなった倭は、「なに見てる?」と外を見ている私の背後に来ると、抱きしめるように私のお腹に手をまわした。



──…私が拒絶しない、と、分かっている倭は、最近こうやって、人目があるところでも抱きしめるようになった。




風が窓の外から吹いているというのに、倭からは鉄の匂いがした。これが血の匂いだといやでも分かる。

私のお腹に回す倭の手には、血はついていない。

もしかしたら洗い流したのかもしれない。



「なにも、空気、入れ替えようと思って」


「気分悪いのか?」


「あんまり、教室にいたくない」



私と会話をすると、またその誰かが、暴行を受けるかもしれないから。



「…そうか」



声も、低くなった。



「倭」


「うん」


「町田…、倭のこと心配してたよ…」



倭は何も返事をしなかった。


倭は私から離れると、またどこかへ行ってしまった。





その日の夜、家にいると、倭がきた。


〝今日も〟倭は私の気持ちを確かめるために、そういう行為をしに来たらしい。



ベットの中で、いろいろな考え事をしていた私は、倭が部屋の中に来ても無視していた。



「…寝てんのか?」という倭の言葉にも無視していると、ベットに腰かけた倭が私に近づいてくるのが分かって…。



倭は気づいてる、私が起きていることを。



倭は唇を重ねてくる。

倭が舌を入れてきても、私は拒絶しない…。

数分ほど重ねていると、倭は何事無かったように部屋から出ていく。



来る前に吸ってきたのだろう。

倭のキスは、煙草の味がした。

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