第90話

────倭と付き合ったよ


穂高にその連絡をしたのは、夜だった。

『ふうん…』と、どうでもよさそうに答えた穂高。穂高も分かっているらしい。付き合ったものの、そういう単純な付き合いではないことを。


私と倭の間には、溝があることを。



「…穂高には、言っとくね」


『わかった…』



なんだか、穂高の声がいつもより暗く。



「穂高?」


『ん…』


「何かあったの?」


『…いや』


「いつもと違うよ」



軽くため息をついた穂高は、『なぁ…』と、静かに呟いた。



「…なに…?」


『俺が真希に手ぇ出したの、人数を増やすのが目的で…。…つか、増やしたいのは倭の前のやつを潰したかったから…』



真希…?

市川真希って子のこと?

穂高は〝真希〟って呼んでるの?


亜貴のことを言っているらしい穂高に、「うん…」と返事をした。




『そいつがいない今、人数もどうにかなるし…』


「穂高?」


『お前には悪いと思うけど…』


「……」


『…あいつ使うのやめるわ…』



やめる…。



「あいつって……、その、真希って子?」


『…ああ』


「…穂高、その子に何してたの?」


『呼び出してヤってた』


「……無理矢理?」


『そうだな、写真がまだあるって言って』


「……そう…」


『……人数はなんとかする、』


「…うん」


『倭の事もなんとかする』


「……」


『悪いな…』




穂高の言っている〝悪いな〟って言うのが、よく分からなかった。




「…可哀想って思ってきたの?」


『…分かんねぇ』


「うん」


『…悪いな』


「謝る意味分かんないよ、私は反対してたし…、それに、」


『……』


「穂高って、そういうのは向いてないと思うよ」


『……』


「……穂高は良い奴だから……」


『……性格悪いって言われるけどな』



少し、穂高が笑う気配がして…。



『真希が、高島に護衛されてる』


「高島って…綾さんの弟の?」


『もしかしたらそのせいで、真希が狙われるかもしれない…』


「…なんで?」


『高島…結構恨み買われてるから、』


「一緒にいるからって意味だよね、誰に狙われるの?」


『……泉たち、』


「うん」


『もし、倭が狙いそうなら…そんときは連絡くれ』



女の勘、っていうやつなのだろうか。

穂高の声の態度が、そういう感じがする。



「…それは、真希って子を守りたいっていう意味でいいの?」


『守りたいっていうより、戻したい』



戻したい?



『俺と会う前に……』



それは、つまりは、無理矢理してきたことを無かったことにしたいっていう意味じゃないのかって思ったけど…。



もしかすると、穂高はその子を好きになってるのかもしれない…。



「穂高?」


『ん?』


「後悔しちゃだめだよ…私みたいに。私や、倭のことを考えないで、自分の意思で動くんだよ」

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