第89話

「俺の女になるってことでいいのかよ?」



倭の…。

どうすれば伝わるんだろう。

どうすれば、私の気持ちが伝わってくれるのか。

私は本当に倭が好きだから、一生一緒にいたいって思ってる。

でもきっと倭の中では、私は穂高が好きだけど怪我のせいで私がここにいる、って思っているかもしれない。



「倭が、…望むなら…」


「……」



今度は倭が私の腕をひく。

いつ鍵が壊れたから分からない、使われていない教室の中に入った。

教室といっても、どこかの部屋だった。

少し埃が被っている、応接間のような部屋だった。そこの2人がけのソファに私を連れていった倭は、少し強引に私を座らせた。



そのまま私の首筋に顔を埋める倭に、背筋が凍った。倭が怖いとか、そんなんじゃない。

私は〝この行為〟が怖い…。



「…拒否んねぇの?」



倭が耳元で呟く。



「や、ま…」



声が震える。



「嫌だったら、簡単に償うとか言うなよ」



違う…。

震えてるのは、倭が原因じゃないの。

ただ〝この行為〟が怖いだけなの…。



「倭の彼女に、なりたいと思ってる…」


「……ん…」



倭の手が、服の中に入ってくる。

私の鎖骨に唇を当てた倭に、びく、っと肩が揺れた。


それに対し、鎖骨から唇を離した倭は、ゆっくりと押し付けるように私を連れていったソファに埋めた。



今一度、首筋と鎖骨の間辺りに唇を寄せられる。それは少し強引だった。



スカートの中の、太もも辺りに指先でなぞられ、私は倭の腕を掴もうとした。でもそこに、火傷のあとがあって…。泣きそうになりながら手を引っ込めた。



「…やまと、…まって、」


「うん」


「…──…こわい、……こわいよ…」



倭が体を起こし、私を見下ろした。

倭はゆっくりと私の端の方の額にキスをしてくると、遠のき、ソファから起き上がった。



どうしよう。

離れていく倭を見て、不安が募る。

穂高にはやらせたのに?って思わせたらどうしよう…。



「…分かってる」



何を分かってるか分からない。

倭は何を分かってるんだろう。



「…分かってるから何も言うな」



倭は誤解してないだろうか?

本当に黙ったままでいいだろうか?



「…俺のになってくれんの?」



それに対して頷けば、倭の顔が近づいてくるのが分かった。


それはこの前と一緒だった。


私を試しているキスだった。


だって、倭の顔が、全く嬉しそうじゃなかったから。




私と倭の唇が重なる。



倭が少し角度を変えれば、倭が少しだけ口を開けたから、私も開けた。


舌が重なって、ゆっくりとした動きの倭の舌を受け止める私は、拒絶しなかった。


倭はしばらくキスを続けた。

悲しい顔をしてるくせに、私を離そうとしなかった。


私はこれ以上、倭がどこにも行かないように必死だった。


唇が離れた時、倭はどこか泣きそうな顔をしていた…。

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