第86話

その日の夜、いくら待っても倭は帰ってこなかった。


倭に誤解されたくない。

そう思ったけど、穂高はずっと私を助けてくれた人だから。私だって穂高が大事。


だから穂高にもちゃんと謝ろうと思ったけど、携帯が壊れているから連絡をとることができなくて。

夜の9時頃、私は穂高が住むマンションへと向かった。何階か知らないから、表札を見て穂高が住む階を探した。


亜貴はきっといないだろう。

私に姿を見せないと言ったから…。



インターホンを鳴らす。

出てきた穂高は、晃貴の方だった。

私の姿を見て、不機嫌さを表した男は「なんの用」と怪訝な態度を出す。



「……話があるの」


「なに、俺はなぁんもねぇけど?」


「……」


「……つか、来るなら連絡しろよ」


「……スマホ、壊れたから……」


「ふうん。…暑いし、中入れば?」



部屋の中に入っていく穂高。

穂高を信用している私は、穂高の後ろ姿を見ながら中へと入った。

相当イラついているようだった。

だけど、午前中よりも、怒ってはいないようで…。



穂高の後を追うように、リビングに向かう最中、開きっぱなしのドアの中が見えた。

…誰かの部屋らしい。

多分穂高の部屋だろう。

気にせず、廊下を歩こうとした時だった。

〝それ〟が見えたのは。


最近、〝赤〟に敏感になっている私は、〝それ〟をみて穂高に駆け寄った。

リビングのソファに腰かけようとしていた穂高を引き止める。



「穂高!」


「…あ?」


「け、けが!怪我してるの?!」


「してねぇけど」


「だっ、だって…血が…」


「血?」


「ベット、シーツに、血が…ついて…」



正確に言えば、ベットの中心と、枕元だった。

そこについていたのは、真っ赤な血。

まだ新しそうな血だった。



「ああ…」



どうでもよさそうに呟いた穂高は今度こそソファに座り、タバコに火をつけた。



「ああ、って…血が…」


「俺のじゃない。つーか勝手に部屋見んなよ」


「違うの? あそこ穂高の部屋じゃないの?」


「さっきまで女いたから」



女?




「無理矢理突っ込んだら血が出た、それだけ」

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